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日本のIT教育

プログラミングが義務教育で取り入れられたからといって、今後日本がIT技術者の育成に力を入れていく、という方針になったわけではありません。現在はIT技術者の需給バランスが崩れており、2030年頃までは30万〜60万程度のIT技術者が不足すると言われています。そのため技術者の育成と確保は必要ですが、プログラミング教育と技術者の需給問題は別の話だと考えておきましょう。

プログラミング義務教育化の背景

なぜプログラミングが義務教育に取り入れられたのでしょうか?大きな理由として挙げられているのは「論理的な思考を身につけられるようにするため」だと言われています。

プログラミングは目的と手段がハッキリ決まっており、例えば「Aという動作を実現するためにはBという行為をしなければならない」というように論理的な決まり事を守らないとその通りになりません。プログラミングを学ぶことによって、プログラミングにおける論理的な思考を身につけることができ、それによって「Aができない」「ではBは正しく行われたのか?」というような解決法を探ることができるようになる、と期待されているのです。

IT産業への波及効果を期待

現代におけるITの巨大企業は主にアメリカが中心になっており、しばしば日本からもアメリカのようなIT企業が生まれるべきではないか、との声が上がっています。日本からAppleやFacebookのような巨大IT企業が生まれないのは、もともとプログラミングに関する国民全体の知見が不足しているからではないか、との仮説もありました。

そのため、幼少期からプログラミングに触れておくことで青年期になった際にも自然にプログラミング技術をブラッシュアップすることに繋がり、将来的にイノベーションを起こせるような製品開発に繋げたいという思惑があると言われています。プログラミングができれば革新的な製品が開発できるかというとそうとも言い切れない部分はありますが、プログラミング技術や知識を深めておいて損をすることはありません。

そもそも教育効果は数年〜数十年かけて浸透していくものなので、2030年頃まではIT技術者の不足状況が続くと言われている現状においては、10年スパンでIT教育、プログラミング教育を実施していく意義は大きいと考えられています。

「IT教育」と「ICT教育」の違い

近年では過去に「IT」とひとくくりにされていたものを少し細分化し、「IT教育」と「ICT教育」に分けて考えることがあります。

「IT」とは「Information Technology=情報技術」、「ICT」とは「Information & Communication Technology=情報通信技術」のことを指します。わかりやすく言うと「IT教育」とは「IT技術そのものに関する教育」を指すのに対し、「ICT教育」とは「IT技術そのものを教育に活用すること」を指します。

「IT教育」ではパソコンやサーバーなどに関する技術そのものを学びますが、「ICT教育」においてはパソコンやタブレットなどの端末を利用して授業を進めたり課題を作成したりすることになります。実際に公立学校では1人1台のPCやタブレットが実現し始めており、各学校に1人あたり1台いくら、という予算が割り当てられています。家電量販店などではタブレットの売り切れが起きることが目立つこともありますが、これは学校での「ICT教育」が順調に進んでいる証明でもあるのです。

日本のIT教育は2017年頃から教育現場の整備が本格化していますが、これはどちらかと言うと「ICT教育」の強化に該当する動きでした。今後の教育現場において、例えば学校の授業でHTMLやCSS、JavaやPerlなどのプログラミング言語を教え、実践させるような授業が始まればいよいよ「IT教育」が本格的になったと評価されるようになると考えられます。

PCやタブレット、スマートフォンなどのデバイス操作を身につける速度は子供のほうが早いため、オンライン授業やチャットなどを使った授業が一般化するためには教師側の適応も必要になります。そのため子どもたちに対するIT教育・ICT教育の促進が、ひいては社会全体のIT教育・ICT教育の強化にも繋がるという側面があるとも言えるでしょう。

世界各国のIT教育事情は?

IT産業における国際競争力を高めるという目的もあって導入が進んでいる日本のIT教育ですが、日本以外の各国ではどのようなIT教育が行われているのでしょうか?日本よりも先進的なプログラミング教育などが行われているのでしょうか?いくつかの事例をご紹介します。

アメリカ合衆国

アメリカはApple、Microsoft、Google、Amazon、FacebookやTwitter、Uberなどなど、巨大IT企業が本社を構える「IT大国」とも呼べる国です。バラク・オバマ元大統領の政権当時、「Computer Science for All(全ての人にコンピューター・サイエンスを)」というプロジェクトを発表し、IT産業向けの人材育成を強化する方針を打ち出しました。

また、アメリカでは小学生〜高校生を対象に「Code.org」というWebサイトが開設されており、主にApple、Google、Microsoftがこのサイトに協力しています。さらにこの「Code org」では「Code Studio」というプログラミング教育の環境を用意しており、主に小学校を中心に全米で利用されています。

巨大IT企業が数多く存在することも影響はしていますが、アメリカは国としての面積が日本と比較して相当に広大で、州をまたいだ移動はそう簡単には実現しません。西海岸と東海岸で時差も存在するなど、時間的・地理的な距離が離れていることもあって遠隔教育の必要性が日本よりも従来から高かったのです。そのため比較的早くからオンライン授業やIT関連デバイスを活用した教育システムの整備が進みやすい背景があったと言えるでしょう。

オーストラリア

オーストラリアでは教育制度や教員の養成システムが州ごとに異なっているため全国一律ではありません。しかし例えばメルボルンのあるビクトリア州では大学でICTを活用するための教育システムに関する研究が行われ、その結果に基づいた教員の養成が行われています。このように教員が養成課程でプログラミングやVRなど、テーマごとにIT教育、ICT活用教育を行うためのベースを身につけることになっています。

現在ではIT教育の分野だけではなく、通常の授業もパソコンやタブレットを使って行われるケースが増えています。オーストラリアも、そもそもが日本より20倍近く広大な国土を持つ国であるため、1950年代から遠距離教育の仕組みが構築されてきました。郵便ネットワークを利用した添削授業や、ラジオを使った授業などが古くから行われてきた事情もあり、現代においてはそれらの方法論がインターネットやITを活用したものに置き換わったという理解が正しいでしょう。

コロナ禍においても遠隔授業は行われており、ビデオチャットやオンライン会議システムを活用した遠隔授業による教育は継続的に行われています。

台湾

IT担当大臣の若さや、社会全体の高いIT対応能力が話題となった台湾もIT教育に力を入れています。台湾では2000年代初頭からインターネットやITを活用した教育体制の確立が着手されており、20年に渡るIT教育・ICT教育の成果が現代に活きている事例だと言えるでしょう。

台湾では過去20年間で約80,000人の教員に対してICT研修が行われており、これは台湾全体の教員数の40%に及びます。この取組は現在でも継続して行われているため、近い将来はほとんどの教員がICT教育に関する研修を終え、知識を持った状態でIT教育を行える社会が到来することを予測させるものになっています。

まとめ

日本におけるIT教育、そして海外でのIT教育の事例について紹介してきました。IT技術や知識、そしてデバイスの活用は現代においては必要不可欠であり、すでに日常生活の一部となっています。一方でそれらを活用するために必要な基礎知識を自然に体系立てて学ぶ体制は、社会として整備されているとは言い切れない状況であることも事実です。

日本でもIT教育、プログラミング教育が義務化されたことで、今後は様々なIT知識を身につけた若者が新たな産業の創出や国際競争力に優れた製品の開発などを実現して活躍する姿が見られるようになるかもしれませんね。