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案件獲得に向けた営業活動はフリーランスにとって非常に重要ですが、受注できたからといって安心していてはいけません。請負・委任などの業務委託契約が交わされるケースの多いフリーランスの場合、発注側の規程に沿った支払サイトが適用されることがほとんどだからです。よく確認しなかったばかりに、自身の支払に困窮してしまったなどということにならないよう、しっかりと支払サイトを含めた契約内容の確認が必要です。

それでは、なぜ支払サイトなどというものが存在するのでしょうか?業務委託における支払サイトの一般的な期間は?支払サイトに関連して確認しておくべきポイントとは?支払サイトを短縮する方法とともに、フリーランスなら理解しておきたい支払サイトの詳細を解説していきます。

支払サイトとは?

月給制が主流の日本の雇用契約では、1か月の労働時間を清算するための締め日が設けられており、業務委託などの商取引にもそれに準じた締め日が存在します。この商取引の締め日から、報酬が振り込まれる支払日までの猶予期間が「支払サイト」です。ここでいう「サイト」とは、貿易用語として使われる「at sight(一覧払い)」に語源に持つ言葉だといわれています。

本来の一覧払いは、猶予期間なしですぐに支払を実行するものですが、atとsightの間に「60 days after」などと記入された、ユーザンヌ付といわれる代金決済方法があり、この場合は支払までに60日間の猶予がある「L/C信用状」を用いた手形決済となります。つまり、ユーザンヌ付手形決済を参考にした商取引の猶予期間=支払サイトということになります。

なぜ支払サイトが設定されているのか?

給与所得者であればご存知のように、雇用契約であっても締め日から給与支払日までの猶予期間が設けられています。これは給与計算・振込などの事務手続きに一定の時間を要するからであり、一般的には10〜15日程度と猶予期間も短くなっているのが特徴です。一方、商取引における支払サイトは、給与計算の猶予期間と比べても非常に長めに設定される場合がほとんどです。報酬を含めた事前の合意が基本の業務委託なら、事務手続きを考慮に入れても素早く報酬を支払えるのではないでしょうか?なぜ、支払サイトが必要なのでしょう?

掛取引という信用取り引き

ひとつには、日本における商取引が「掛取引」という、企業間の信用取り引きを中心にしている事実が挙げられます。掛取引とは、取引の度に都度、現金支払いすると事務業務に多くの工数が発生してしまうため、取引を一括管理して組織の入出金を効率化させる取引方法です。発注側が「買掛金」という負債の勘定を持ち、受注側が「売掛金」という資産の勘定を持ったうえで両者が合意した支払サイトで決済する、信用取り引きの一種といえ、身近なところでは「ツケ払い」と同じ構造です。

成果物の検収期間

成果物の納品をもって仕事の完了とする請負契約では、成果物が契約で定められた要件を満たしているか、発注者が検査する「検収」という慣習があります。発注者が不完全な成果物を受領してしまわないようにしっかりと検査するため、支払サイトを活用するという意味合いもあるでしょう。

もちろん、契約書に「検収完了をもって納品とする」などの文言が加えられるケースもありますが、近年では検収の難しいアジャイル型開発が増えており、商法では発注者に受領した成果物を遅滞なく検査する義務を設けています。コンプライアンス遵守が求められる現代では、受領を長引かせるよりも支払サイトを利用して成果物を検査し、都度の修正を受注者に求める方が合理的なのです。

キャッシュフローに余裕を持たせたい

組織がビジネスを展開していくうえでもっとも重要視するのが、手元に残る資金の流れ=キャッシュフローです。現金の支払を先延ばしにできればできるほど、現金の受取りまでの期間を短くできればできるほど、組織のキャッシュフローに余裕が生じます。たとえば、受領した成果物を活用して利益を素早く生み出せれば、先延ばしにした代金支払時の負担を減らせます。支払サイトが存在するもっとも大きな理由は、発注側企業がキャッシュフローに余裕を持たせたいからだともいえるでしょう。

フリーランスの支払サイトはどのくらい?

支払サイトの期間設定は、企業間のBtoB取引であれば「月末締め翌月末日払い」というのが主流です。この場合の支払サイトは、月ごとの日数の違いに関わらず「30日サイト」と呼ばれるのが一般的です。支払サイトの長い企業では「月末締め翌々月末日払い」というケースもあり、この場合は「60日サイト」と呼ばれます。フリーランスが対企業で請負契約を結ぶ場合も、30日サイトが主流、最長で60日サイトという、企業間取引に準じた支払サイトが適用されると考えていいでしょう。

もちろん、30日・60日サイトが主流というだけであって、クライアント企業の事情や規程によって支払サイトの期間設定はさまざまです。一般的には20日、25日といった5日刻みで期間設定されるケースが多く、月末ではなく20日、25日といった締め日が設定される場合もあります。

フリーランスに負担の大きい支払サイト

主流となっている30日サイトであっても、月初に請負契約を締結すれば、月内に納品できたとしても現金化できるのは60日後です。納品・検収が1日でも遅れればこの期間は90日になってしまい、60日サイトであれば現金化できるのは最大で120日先になってしまいます。

下請け企業の請負であれば支払サイトが長くなる傾向もあり、資本のある法人であればともかく、フリーランスにとっては支払サイトが重い負担になりかねません。計画性をもってできる限り早めに納品できるよう努めるとともに、支払サイトに関しても契約時に主張できるところはしっかりと主張すべきでしょう。

フリーランスが知っておきたい下請法

たとえば、従来は90日などの支払サイトを採用する企業も存在し、支払が手形といったケースも皆無ではありませんでした。しかし、下請法の第2条の2では「親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して、60日の期間内において、かつできる限り短い期間内」に支払期日が定められなければならないとされています。つまり、60日を超える支払サイトは下請法で認められていません。下請法の対象となるフリーランスは、必ず押さえておきたい条文です。

契約時に確認したい支払サイトの注意点

請負契約だけでなく、委任契約による役務を客先常駐で提供する場合を含め、業務委託では必ず支払サイトが設定されていると考えて間違いありません。計画的に成果物を納品し、できる限り早く報酬を現金化するためにも、業務委託契約時には、期間設定を含めた細かい部分まで支払サイトの詳細を確認しておくべきです。それでは、支払サイトに関連したどんなポイントを注意しておけばいいのか?具体的に解説していきます。

金融機関休業日の扱い

毎月15日、20日、25日、月末など、報酬の支払日は企業に応じてさまざまに設定されていますが、支払該当日が金融機関の休業日と重なるというのはよくあることです。国民の祝日・代休などが重なれば、入金日が予定よりも3〜4日ズレ込んでしまうことも考えられます。金融機関休業日の報酬振込はどのように扱われるのか、資金繰りに余裕の持ちにくいフリーランスは、是非とも確認しておきたいポイントです。

民法の第142条では「期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間はその翌日に満了する」とあります。つまり、支払日が金融機関休業日であれば、発注者は翌営業日に支払すればよいと民法では定められています。一方、支払該当日が休業日の場合、前日に支払を完了してくれる企業が多数派なのも事実です。認識の行き違いが生じないようにするためにも、事前の確認が重要です。

振込手数料の扱い

報酬単価が大きい案件では見過ごされがちですが、単価の低い案件はもちろん、積み重ねれば無視できないのが振込手数料であり、これを発注者・受注者のどちらが負担するのかは大きな問題です。一部の業界では慣習的に振込手数料を差し引く企業が多いため、どちらの負担になるのか、フリーランスが契約するときに確認しておきたいポイントです。

民法の第485条では「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は債務者の負担とする」とあるため、契約書に記載がない場合は発注者が振込手数料を負担するのが基本です。一方、近年では契約書に「振込手数料は受注者負担」という条文が盛り込まれることもあります。契約書の内容も忘れずに確認すべきでしょう。

請求書の扱い

役務の提供となる委任契約で求められることは多くありませんが、請負契約では請求書の受領がイコール成果物の納品となるのが一般的です。請求書の発行を求められてから慌ててしまわないよう、普段からテンプレート・フォーマットを用意しておくとともに、記載するべき項目を確認しておくのが重要です。請求書には法的に定められたフォーマットはありませんが、取引の証拠として残しておくためにも、以下の項目を記載するのが一般的です。

・請求日

・請求先の企業名・担当者名

・請求者の名前

・取引内容

・請求金額

・振込先の口座情報

・振込期限

クライアントによっては、税別・税込の明記、請求者の連絡先、捺印などが求められることもあり、委任契約でも請求書を求められる場合もあります。

支払サイトを短縮する方法はある?

支払サイトをしっかりと理解・確認し、最短で報酬を現金化できるように計画的な業務を遂行するのは可能ですが、決定権がクライアント側にあることがほとんどの支払サイトを短縮するのは困難です。支払サイトを短縮し、フリーランスの負担を軽減するような方法はないのでしょうか?

支払サイトの短いエージェントを選ぶ

客先常駐で開発プロジェクトを担当する、委任契約中心のフリーランスエンジニアであれば、フリーランスエージェントによる案件紹介を活用しているかもしれません。こうしたフリーランスエージェントでも30日サイトが主流となってはいますが、近年ではエンジニアが働きやすいように15日サイトなどの短い支払サイトを採用するエージェントも増えています。紹介できる案件数・案件の質とのバランスもありますが、独立したばかりで余裕がないときなどを中心に、支払サイトの短いエージェントを利用するのは理に叶っています。

請求書買取サービスを利用する

手数料がかかるデメリットはありますが、報酬を素早く現金化したいときに有効なのが、請求書買取サービスの活用です。ファクタリングともいわれる請求書買取サービスは、担保や保証人が必要ないうえ、オンラインのみで完結するサービスもあります。急な支払に備えて売掛金の回収が必要な時など、覚えておきたいサービスです。

支払サイトを単価交渉の材料にする

フリーランスと企業間の請負契約であれば、支払サイトを単価交渉の材料として活用するのも方法です。たとえば、提示した金額がクライアントの予算を上回るときなど、単価交渉に応じる代わりに支払サイトを短く設定するように働きかけるのです。その逆に、支払サイトを長くする代わりに、提示金額を飲んでもらうといった交渉も可能でしょう。

まとめ

案件を受注する立場として、報酬・支払に関する交渉はしにくいと考えるフリーランスエンジニアの方は少なくないかもしれません。もちろん、支払サイトの期間交渉は簡単ではありませんが、認識のズレをなくすためにも確認作業は重要であり、それで気を悪くするようなクライアントはほとんどいません。業務委託という台頭の立場だからこそ、しっかりとコミュンケートしたいものです。