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はじめに

ITILは「Information Technology Infrastructure Library」の略で、ITサービスマネジメントを行うに当たっての成功事例が体系的にまとめられたガイドラインのことを指していて、ドキュメントとしてまとめられています。ITILはITサービスマネジメントシステム(ITSMS)の国際基準であるISO/IEC 20000の基にもなっており、2010年以降辺りからその重要性が見直されています。なお読み方は「アイティル」またはそのまま「アイティーアイエル」となります。今回はそんなITILの基礎知識を紹介したうえで、ITILの知識習得具合が問われる認定試験のうちエントリーレベルである「ITILファンデーション」をピックアップして詳細を紹介していきます。受験を検討しているものの試験の全貌が見えていない方はぜひご覧ください。

ITILの基本

ITIL自体は初版の公開が1989年なので2022年時点で既に30年以上の歴史があり、特に目新しいものではありません。それでも近年再注目されるようになったのは、時代的な背景に理由があります。2010年頃からクラウド型のサービスが多くリリースされ、個人だけではなく企業でも広く利用されるようになりました。クラウドサービスには利用者自身でインフラを構築・管理できるIaaSのようなサービス形態もあり、システム開発を外部に依頼しなくても車内で完結できる状況が生まれました。とは言え元々システム開発やSIer等の業種でない限りは、運用していくためのノウハウを持ち合わせていないことがほとんどです。そこで誰もが指標にできるモデルとしてITILを参照するという流れが発生している状況です。またITILの内容が今の時代に合ってきているものの、ITIL側も決して古いままではなく、複数回の改定を経てより現代のITサービスに見合ったガイドラインとして利用され続けています。なお2022年時点の最新バージョンはITIL 4(V4)となっています。

さて、冒頭にITILはITサービスマネジメントにおける成功事例が体系的にまとめられたガイドラインと紹介しましたが、もう少し噛み砕いて説明すると、長い間試行錯誤がありながら行われてきたITサービスマネージメントのうち、これは有効だった、役に立った、コスト削減につながったというような事例やノウハウがまとめられた読み物と考えてもらえるとイメージしやすいことでしょう。もっと簡単に言うとITILはITサービスで成功するためのフレームワーク(型)とも言えます。今回はITILファンデーションについて紹介する前に、ITILを学習するうえで特に重要とされている項目に絞って解説していきます。

サービスのライフサイクルについて

ITILではITサービスのライフサイクルを5つのプロセスに分けて定義されているため、それぞれの概要を紹介します。

サービス・ストラテジ

ITサービス提供の戦略を立てるプロセスです。一般的なマーケティングのように市場分析をしてビジネス領域、ターゲットを定めたうえでどのようなサービスを提供するかを決めます。サービス提供を実現するための資源確保の他、財務や需要、サービスポートフォリオ、事業関係等の管理についても検討されます。

サービス・デザイン

サービス・ストラテジが戦略面のプロセスであるのに対して、サービス・デザインは具体的なサービスの設計を行うプロセスとなります。品質を保ちクライアントの満足度を高め、最適な費用対効果を実現するためにサービスカタログ、可用性、キャパシティ、継続性、サービスレベル、デザインコーディネーション、情報セキュリティ、サプライヤー等多くの管理すべき項目について検討されます。

サービス・トランジション

完成したシステムの運用を始めるにあたってどのような段階を踏んで、どのような方法で進めていくかについてを定めるサービスの移行プロセスです。移行の計画立案、サポートについて、変更管理、サービス資産と構成の管理、リリースと展開の管理、サービスの妥当性確認・テスト、変更に関する評価、ナレッジ管理について検討されます。

サービス・オペレーション

サービス・トランジションで運用段階への検討が十分になされた後に実際のサービス運用段階となるのがサービス・オペレーションのプロセスです。2つ目のサービス・デザインであらかじめ合意されたサービスレベルにおいてサービスを提供する方法を詳細に定めます。具体的な項目としてはインシデント管理、要求実現、イベント管理、アクセス管理、問題管理が該当します。

継続的なサービス改善

ITサービスは完成後に一旦納品という状態にはなりますが、納品して終わりではありません。提供後も品質の維持だけではなく、状況変化に対応した仕様変更等を行って継続的に改善を続けていく必要があります。そのためにフローの見直しや分析、PDCAの実施等を行いますが、それらの方法を検討するプロセスとなります。

3つの「P」について

ITILを効果的に実践するためにITILでは3つのPを定めています。その3つとは、Process(プロセス)、Person(人)、Product(ツール)です。Processにおいては業務における役割や責任を最適化する必要があること、Personにおいてはスキルの向上やモチベーションアップを行っていく必要があること、Productにおいてはツールによって効率化や業務の一元化を実現する必要があることに触れられています。またこの3つはProcessが4、Personも4、Productが2の4:4:2の比率でバランス良く注力することが重要と言われています。古くからあるITILですが、機械的にITサービスの運用をこなすだけではなく、人や利用するツールの重要性が説かれていることからも、ITILの内容が現代にも見合っていてさらに重要視されるようになった理由が伺えます。

ITILファンデーション試験について

ITILの試験は4段階にレベル分けされていて、今回取り上げるITILファンデーションが初級のエントリー資格、次に中級者向けのITILインターミディエイト、上級者向けのITILエキスパート、最上位のITILマスターと続きます。いずれも英国の政府と民間企業が運営するAXELOSという組織が認定している試験で、世界180カ国、25言語で実施されている国際的な資格となっています。また2022年時点でITILファンデーション取得後の有効期限は定められていないため、一度取得してしまえば今後期限が設定されない限りずっと履歴書等に記載可能な資格となります。なお現在もAXELOSのサイトを見るとITILに関する説明が掲載されていますが、日本でITILファンデーションを運営しているのはPeopleCert社となっており、試験はプロメトリック、ピアソンVUEを経由して申し込み、受験可能です。

試験の難易度は低めで、合格率も公表はされていないものの高めであると言われています。実際、特定非営利活動法人スキル標準ユーザー協会によりIT資格を難易度で分類された資料「ITSSキャリアフレームワークと認定試験・資格の関係」の中で、ITILファンデーションはもっとも簡単なレベル1に分類されています。また合格するために必要な学習時間の目安は20〜40時間とIT試験の中でも短くなっています。

試験時間は60分で問題数は40問(全て四者択一)あり、合格の基準は65%以上(問題数にすると26問以上)です。PeopleCertが公開している公式のシラバスがPDFにてインターネット上で確認できるようになっていますが、こちらの資料を閲覧することでITILファンデーションの最新の試験概要や設問の形式、出題範囲が把握できます。なお現在受験できるITILファンデーションのバージョンはVersion3とVersion 4になります。

続いて試験の受け方ですが、情報処理技術者試験等の国家資格と異なり1年の実施回数や特定の日程は決められていないため、試験を実施しているプロメトリックかピアソンVUEの全国各地の会場が営業している日時のうち自分の好きな時間に受験が可能です。そのためシフト勤務で土日に休むことが難しい人も平日での受験が可能です。なおITILファンデーションの受験でネックとなりやすいのが受験料で、通常43,890円(税抜)がかかります。企業によっては合格すれば受験料を負担してくれるというところもありますが、不合格となった際の負担が大きくなります。しかしプロメトリックやピアソンVUEでバウチャーチケットを購入した場合は割引きが効き、3万円台前半で受験できる可能性があります。詳細な料金については変動する場合があるため、受験する際に必ず申し込みサイトにて確認することをおすすめします。

試験会場ではパソコンで試験を受けます。身分証明書の確認や試験に関する簡単な説明や注意点を聞き、自分のタイミングで試験を開始します。試験時間の60分をフルに使わずに見直し含め完了した場合、終了時も自分のタイミングで試験を完了、退出が可能で、合否に関してはその場ですぐに確認できます。なお合格認定証はその場で受け取ることはできず、後日登録の住所に送られます。

ITILファンデーション資格を取得するメリット

ITILファンデーションに合格することでITILに関する基礎的な知識の保有を証明できます。ITILのエントリー資格ではありますが、IT企業では必須と言って良いほどの知識となっているので、IT企業へ志望する際に書類に記載していれば、すでに基礎が身についていると認識される可能性が高くなります。ITILファンデーションの取得を応募条件としている企業であれば尚更です。また世界共通のフレームワークであるため、ITILを正しく理解しているエンジニア同士では共通認識を持った状態となり、業務上のコミュニケーションにおいて齟齬が発生しづらくなります。また試験に向けた学習をすることで業務に生かせる知識を増やせるということもメリットの一つです。ITサービスの業務に携わっていれば、品質管理やコスト削減、オペレーションの管理、インシデント管理等、当然のように様々な場面でITILファンデーションの知識が役に立つ場面が出てきます。

まとめ

ITILは近年のITサービス運用においても重要なファクターと捉えられており、IT企業では引き続き導入が推奨されている傾向にあります。そのためすでにエンジニアである方が現在それぞれの立場で担当している業務はITILに基づいている可能性が高い状況となります。それでも業務やプロセスの意味や概要、用語の定義については普段業務をしているだけでは知り得ないことが多いです。ITILの各試験はそれらの知識を補える良い機会であり、特にITILファンデーションはITILを学ぶうえでのエントリー資格なので、ITILファンデーションを学習するだけでも基礎的な内容が習得が可能となります。なおITILファンデーションの試験にかかわらずIT系の資格は覚えることではなく、覚えたことを基に実践することが重要なので、決して用語等を丸暗記せず、それぞれの内容を深く理解したうえで資格取得を目指し、取得後には業務生かせるようにしていきましょう。