フリーランスが会社設立を考えるためのポイントとタイミングは?

フリーランスとは

まず「フリーランス」という用語の定義をはっきりしておきましょう。
会社や団体などの具体的な組織に雇用されず、仕事やプロジェクトの発生に応じて自由に個々の会社と契約をして業務を行う人のことを、一般的に「フリーランス」と呼んでいます。具体的には、ライターやデザイナー、カメラマン、プログラマーやエンジニアなどの職種が多く、かつて中世ヨーロッパで、有力者と契約を結んで仕えた騎士をフリーランス(当時の武器は槍=lance)と呼んだことが語源であるという説もあるそうです。

フリーランスのメリットとデメリット

メリット

時間や勤務場所にとらわれず自分のしたい仕事を自由に選び、自分の決めた時間の中で働くことができるというメリットがあります。会社組織に属していないため、上司からの指示や同僚への気遣いなどからも解き放たれて、自由に好きな仕事を行うことができ、能力に応じて給与生活者よりも高額な報酬のチャンスもあるというところが、一般的に多くの人が抱いているフリーランスのプラスイメージでしょう。

デメリット

これに対してデメリットとしては何と言っても不安定であるという点です。多くの顧客を得て、次々と仕事が受注できれば大きく稼ぐこともできますが、いつもそうとは限りません。なかなか次の仕事を受注できない不安な期間があるかもしれませんし、逆に仕事が集中し過ぎた時には、働き過ぎて体調やメンタルを壊してしまうリスクがあります。とにかく業務管理にしても健康管理にしても自分の責任で行わなければなりません。

フリーランスと法律

フリーランスの法律的立場についても留意しておくべきです。フリーランスは企業と雇用関係にありませんので、通常の労働者が保護されているところの「労働基準法」などが適用されません。このことから「最低賃金」「労働時間」「休日」「有給休暇」「労災補償」等の、企業が自社の社員を保護する規定の対象外となります。独立した事業主として、多くを自己責任で進めることが求められるのです。※1

※1 もちろんフリーランスに何の保護もないわけではなく、発注元が正当な理由もなく支払を延ばしたりした時には「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」などの適用がされます。また、フリーランスの保護を図るため、発注元とフリーランスとの取引におけるトラブルに迅速に対応できるように、関係法令に基づく執行を強化することや、労災保険の対象拡大、共済制度の活用促進を図ることなども議論されています。

フリーランスが会社を設立することのメリット

ではフリーランスが会社設立をした場合のメリットについて考えてみましょう。

節税できる場合がある

フリーランス(個人事業主)の事業所得に対しては所得税が課せられますが、法人としては事業所得に法人税が課せられます。この場合税率が異なり、場合によっては法人の方が有利です。
所得税率は所得額に応じて累進的に上昇していきますが、法人税率は中小法人の場合、年800万円以下の部分 15%、年800万円超の部分 23.2%と2段階のいずれかになります。そのため、フリーランスとして一定の所得を得ている場合には法人化することで税率を軽減できる場合があるのです。

社会的信用が得られやすい

フリーランスとして事業を行っている場合、個人なので法人と契約することが難しい場合があります。会社を設立して法人化すると法人対法人の契約になるため、比較的契約が締結しやすく信用も得やすいという面があります。事業に対する助成金・補助金を申請することもしやすくなり申請の幅が広がります。

お金の管理がはっきりする

フリーランスの場合には事業による所得と個人の給料の区別が曖昧になっている場合がほとんどです。会社設立をした場合には、事業の利益は会社にプールして、個人は役員報酬を貰うことになります。それによって事業に必要なお金と個人の生活費などがしっかりと分けて管理できるようになります。役員報酬には給与所得控除も適用されますので、節税の観点でもメリットがあります。

会社設立のデメリットと留意点

一方、フリーランスが会社設立をした場合のデメリットや留意点としてはどんなことがあるのでしょうか。

登記申請を行うことが必要

会社設立をするためには登記申請をしなければなりません。会社実印や定款を作成し、他にも多くの登記書類を準備して提出する必要があります。登記が完了したら、年金事務所や労働基準監督署などの役所にも届けを提出しなければなりません。費用を節約するために専門家に依頼せず個人で会社設立をする場合には、登記が完了するまでに最低でも2週間程度は必要になります。

会社設立時とランニングの費用

会社設立をする場合は、当然ながら設立のための費用がかかります。設立費用の比較的安い合同会社では最低6万円、株式会社を設立する場合には最低20万円程度の設立費用が必要となります。また費用は会社設立時だけではなく、その後にもランニングコストがかかります。株式会社であれば、毎年決算公告を行わなければならず、決算掲載費用に5万円程度を支払う必要があります。加えて法人住民税については、例え事業が赤字でも最低7万円は必要になります。

事務手続きの増加

フリーランスの場合には、事務手続きとして必要なのは基本的に確定申告くらいですが、会社設立を行った場合には、フリーランスよりも煩雑な経理業務をこなし書類を作成する必要があります。場合によっては税理士と顧問契約を結ぶ必要があり、その場合にはまた別に費用がかかる可能性もあります。

会社設立を考えるタイミング

このようにフリーランスには自身の能力と才覚で大きく報酬を伸ばしていける可能性と、会社員のようにしっかりとした法律による保障が受けにくいというリスクとが背中合わせになっています。

フリーランスとしての売上が順調に伸びていくと、会社を設立して事業を大きくしていくべきか否かを迫られるポイントがあると思います。果たしてフリーランスが会社設立を考えるべき時のタイミングやポイントとしてどのようなものがあるのでしょうか。
一般的には、会社設立を行うことによって発生する金銭や労力などの「負担(コスト)」よりも、「益(メリット)」の方が大きくなると思われるタイミングが1つのポイントとなります。年間の利益や売上高から考えると以下のように考えることが一般的なようです。

年間利益が800万円を超える場合

先に税について触れてきましたが、利益が安定して800万円を超えると、フリーランスよりも法人の方が納税額を少なくできる場合が多くなります。ある1年だけでなく、安定して利益が800万円を超えるのであれば会社設立をして法人化した方が納税額が少なくなる可能性が高いでしょう。但しこれは事業規模や職種、あるいは事業以外の所得の有無によっても変わりますので税理士などに相談したほうが適切です。

売上高が1,000万円を超える場合

フリーランスであっても売上高が1,000万円を超えると2年後から消費税の納税義務が発生します。ところが会社設立を行い、一定の条件を満たせば設立1年目と2年目は消費税が免除されます。消費税は継続して大きな負担になるので、納税を2年先送りできるという意味でも売上高が1000万を超えるタイミングで会社設立することによる節税メリットは大きくなります。

合同会社という選択

最近、フリーランスが会社設立する場合に合同会社という形態の選択をする人が増えています。株式会社と比べて、合同会社には以下のメリットがありますので知っておいて損はありません。

設立コスト・ランニングコストが低い

合同会社は、会社設立時と設立後に必要となるコストが株式会社より安くなります。設立時にはおよそ株式会社に比べて半分の費用で設立ができます。設立後にも株式会社と違って決算公告の義務がありませんので官報掲載の費用節減が可能です。また株式会社では2年間とされている役員の任期も、合同会社では無制限となっています。重任手続きにかける手間や時間のコスト、重任登記の費用が削減できます。

経営の自由度が高い

株式会社の場合、出資比率に応じて利益を配分することが必要です。出資額が多い人は多く利益を得られ、出資金が少ない人利益は少なくなります。一方、合同会社では出資比率に関係なく、社員間で自由に利益の配分を行うことができます。会社への貢献度が高い人に利益配分をしたいと思っても、株式会社の場合、出資額の制約に縛られますが、合同会社であれば比較的自由に、貢献度に合わせた利益配分を行うこともできます。

節税や社債発行ができる

合同会社であっても、会社設立によって節税や資金面に関しては、ほぼ株式会社に近いメリットが得られます。

このように合同会社は、フリーランスの自由さと株式会社の節税効果との「いいとこ取り」として考えることも可能ですが、株式会社にするか合同会社にするかについては、事業形態や設立に携わる人たちとの関係、取引先との関係など幅広く考え、専門家にも相談して決めるべきです。

まとめ

フリーランスというスタイルで事業を行う場合には、何と言っても、自由に自分の時間や報酬を決めることができることが大きなメリットですが、節税や法律的な保護、信用面、法人との契約などに関しては会社設立を行うことで有利になる場合があります。会社設立を行うタイミングについては、どのような観点があるかについても記載してきましたが、年間利益800万円以上、売上高1,000万円以上が継続して続くのであれば、そこが1つのポイントになると考えられます。会社の形態としては、株式会社を選ぶ場合が多いと思われますが、フリーランスが会社設立を行う場合には、株式会社に比べてコストが低く自由な経営ができる、合同会社という選択も検討に値するでしょう。