ABAPのフリーランス案件事情とは?案件の傾向・報酬・将来性を紹介!
全米の売上高上位500社「Fortune 500」企業のうち、約80%が利用しているといわれるのが、ドイツに本拠を構えるERP大手「SAP」社の製品です。明確なクラウド戦略を打ち出しているSAPは、大規模企業向けだけでなく、中小・中堅企業向けのERPにも業務範囲を広げており、その根幹を成すプログラミング言語「ABAP」への需要も高まりつつあります。SAPの知識を備えたABAPエンジニアの方であれば、活躍のフィールドを広げるためにも、フリーランスへの転身を検討しているのではないでしょうか?
しかしABAPは、オープンなプログラミング言語とは異なる独自の立ち位置を持つのも事実です。ABAPのスキルは将来的にも有効なのか?案件単価や案件数は充分なのか?独立に不安を抱く方もいるかもしれません。そんなABAPエンジニアの方に向け、案件の傾向・報酬・将来性を含めた、ABAPフリーランス案件事情を紹介していきます。
SAP独自の開発言語「ABAP」
幅広い業務ソフトウェアを展開するSAPですが、その中核を成すのはなんといってもERPです。オンプレミスを中心に世界中で導入される「SAP R/3」はもちろん、最新のERP「SAP S/4 HANA」の世界シェアも拡大しつつあります。こうしたSAP ERPの開発に使われているのが、高級プログラミング言語である「ABAP」です。当初は構造化プログラミング言語だったABAPも、現代ではオブジェクト指向へと拡張されていますが、SAPでしか利用できない独自言語であるのが最大の特徴です。
ABAPで開発できるプログラム
モジュール化された各業務システムを組み合わせて構築するSAP ERPでは、各機能が標準化されているため「導入企業の業務をSAPにあわせて変更する」のが基本です。そのためABAPは、データの投入・更新など「ユーザーが使う」ものと、カスタマイズ・開発など「ABAPエンジニアが使う」ものに分類できます。ABAPエンジニアであれば両方に精通している必要がありますが、本記事ではカスタマイズ、アドオン開発に限定して話を進めていきます。
レポート
取得したデータを一覧表示する、あるいは財務諸表として出力するなどのプログラム作成を目的にするのが「ABAPレポート」です。帳票や報告書などの作成機能を追加する際に活用され、大きく以下の3種類に分類できます。
・条件をユーザーが指定してからプログラムを実行する ・条件指定なしで随時プログラムを実行する ・プログラム実行後にデータ更新できる
バッチインプット
大量のデータをバッチ処理するプログラム作成を目的にするのが「ABAPバッチインプット」です。日々の入力が必要な伝票を貯めておき、定期的に処理するプログラムを作成する際などに活用され、業務自動化に役立ちます。
Dynpro
ユーザーのアクションに応じて操作画面が対話形式で遷移する、対話型画面入力プログラム作成を目的にするのが「Dynpro」です。Dynproを使った開発案件は多いとはいえないようですが、ABAPのなかでも比較的難易度の高いプログラムでもあるため、Dynproスキルを持つABAPエンジニアは重宝される傾向にあります。
ABAPエンジニアの仕事
上述したように、導入企業が業務をあわせ込むのがSAPの基本ですが、それだけではクライアントの要求を満たすのは困難です。こうしたニーズに応える形で、SAPのカスタマイズ、アドオン開発を担当するのがABAPエンジニアの仕事だといえます。具体的な仕事内容は、一般的なシステムエンジニアと同様だといえますが、簡単に紹介しておきましょう。
設計フェーズ 顧客のニーズをもとに要件定義を策定し、基本設計・詳細設計していくフェーズです。インメモリデータベースを採用するSAP S4/HANAから分かるように、一般的なシステムとデータ保持の方法が異なるのもSAPの特徴です。基本となるSAPデータベースの知識、各モジュールの知識が必要です。
開発フェーズ ABAPのレポート・バッチインプット・Dynproを使いながら実際のプログラムを開発していくフェーズです。ABAPはSAP独自の開発言語ですが、比較的COBOLと近い言語でもあるため、習得はそれほど難しくはないといわれています。
検証フェーズ テストシナリオ・ケースを作成して、完成したプログラムを検証するフェーズです。アドオン開発であれば、ほとんどの場合でSAPと同時に動作確認する必要があるため、SAPに関する知識・スキルが欠かせません。場合によってはテストデータを準備する必要もあるでしょう。
ABAPエンジニアが活躍する場面
SAPエンジニアが活躍する場面は「SAP導入時のアドオン開発・カスタマイズ」「SAP稼働後の運用・保守対応」「SAP稼働後のアドオン追加開発・カスタマイズ」が中心になります。一般的なエンジニアのように、担当工程やスキルによってPG、SE、PMといったキャリアが考えられるほか、SAPの知識を活かしてコンサルタントに転身する方もいます。
ABAPエンジニアの需要は高い?
それでは、SAP独自の開発言語を扱う、ABAPエンジニアに対する需要は高いのでしょうか?将来的な展望も含めて紹介していきます。
ABAPエンジニアは稀少
オブジェクト指向の高級プログラミング言語であるABAPは、比較的習得が難しくないといわれているのは上述しました。しかし、独自言語であるが故にオープンにされていないのも特徴であり、独学で知識・スキルを磨くのは簡単ではありません。このため、ERPとしてのSAPシェアに対して、ABAPエンジニアは稀少といわれるほどに人材が不足しています。スキルの高いABAPエンジニアであれば、需要は高いといえます。
アドオン開発ニーズの高い日本市場
導入企業が業務をあわせ込むのが基本のSAPですが、独自の帳票文化が発達した日本では少し状況が異なります。帳票出力ができないと業務が滞ってしまうことも珍しくない日本では、ほかのリージョンに比べても圧倒的にアドオン開発ニーズが高いのです。新規導入時はもちろん、追加開発案件も多く、ABAPエンジニアの需要が高い要因となっています。
SAPの2027年問題
インメモリデータベースを採用したSAP S4/HANAの登場により、リアルタイム性に課題を抱えた従来のSAP ERPは、2027年を持ってサポートが終了します。これが俗にいうSAPの2027年問題です。2,000社以上といわれる日本のSAP導入企業は、S4/HANAへ移行する、SAP以外のERPに移行する、R/3を使い続けるいずれかの対応を迫られます。保守の切れたERPを使い続けるという選択肢はあり得ませんが、いずれの場合でも求められるのがABAPエンジニアです。近年、ABAPエンジニアの需要が高まっているのはこのためであり、SAPのシェア、アドオン開発ニーズを考えても将来性は有望だといえるでしょう。
ABAPのフリーランス案件例
それでは、需要の高まるABAPエンジニアのフリーランス案件市場はどのような状況になっているのか?フリーランスへの転身を検討するABAPエンジニアの方がイメージを描きやすいように、公開されているフリーランス案件情報をいくつかご紹介しましょう。あるフリーランスエージェントで公開されていたABAPエンジニア求人は、検索時点で156件ありました。
生保・損保向け基幹システムのABAPエンジニア求人 ・必須要件:ABAP開発経験3年以上(詳細設計〜単体テスト) ・歓迎要件:OracleEBSの知識・経験 ・待遇:ABAPエンジニア、月/80〜100万円
家電量販店向け基幹システムのABAPエンジニア求人 ・必須要件:ABAP開発経験 ・歓迎要件:保守・追加開発に幅広く対応できる方 ・待遇:ABAPエンジニア、月/60〜80万円
自動車会社向け基幹システムのSAPコンサルタント求人 ・必須要件:SAP SD / MMのコンサルティング経験、ABAPの概要設計スキル ・歓迎要件:ロジスティクス領域の知識・経験 ・待遇:SAPコンサルタント、月/80〜100万円
ABAPフリーランス案件の報酬単価は?
参考までに、ABAPの知識・スキルを備えたSAPコンサルタントの求人案件も紹介しましたが、ABAPエンジニアであれば、案件の内容・求められるスキル・経験に応じて60〜100万円程度、SAPコンサルタントであれば80〜120万円程度の報酬が標準的だといえそうです(上記案件例以外も含む)。実務経験によっても報酬が左右される傾向があり、2〜3年程度までであれば70万円前後の案件が、5年以上になると90万円以上の案件が多くなり、まれに150万円を超える月単価の案件もあります。
ABAPエンジニアが高単価の案件を獲得するには?
専門性が高く希少なABAPエンジニアへの需要は高く、フリーランス案件の単価も比較的高額になる傾向にあるのがわかります。しかし、SAP独自の開発言語であるという特殊性と相まって、ABAP市場は一般的なプログラミング言語と環境がやや異なっているともいえます。スキルや実務経験が報酬につながりやすいという点ではABAPも同じですが、それ以外にも、高単価の案件を獲得するために気に留めておくべき要素があります。簡単に解説していきましょう。
SAP案件に強いエージェントを選ぶ
Java / PHPなどの人気言語であれば、どのエージェントでも潤沢な案件数を抱えているものですがSAP / ABAPは違います。本記事で参考にしたエージェントでは、SAP案件が500件以上、ABAP案件が156件ありましたが、ある有名エージェントではそれぞれ16件、12件しかヒットしないうえ、68万円と案件の平均報酬が低いのも驚きでした。エージェントによって月額10万円単位で報酬が変わるのがABAP市場の特徴であり、高額報酬が望めるSAP案件に強いエージェントを選定するのが重要です。
SAP認定資格を取得する
SAPには「SAP Global Certification」という認定資格制度があり、3種類・150以上の資格を最大9か国語で受験可能です。ERPというSAPの性格から、エンジニアへの信頼感を重視する企業も多く、取得しておけば高単価の案件獲得に有利です。
・アソシエイト:SAPソリューションの基本的な知識をカバーすることを認定 ・スペシャリスト:総合コンポーネントの具体的な知識をカバーすることを認定 ・プロフェッショナル:ビジネスプロセスに関する知識・詳しい理解をカバーすることを認定
ただし、受験料が5万円以上、アカデミー受講料が100万円以上と高額なため、組織に所属して実務経験を積みながら習得するのがおすすめです。
SAPコンサルタントにジョブチェンジする
上述からもおわかりのように、ABAPスキルを持つSAPコンサルタントの需要は高く、案件の報酬単価も高額になる傾向があります。開発の現場に拘りたいという方以外は、ある程度のスキルを積んだ時点でSAPコンサルタントへジョブチェンジするのがおすすめです。ABAPスキルのあるSAPコンサルタントなら、仕事が途切れてしまうことはないでしょう。
まとめ
SAPを取り巻く環境とともに、ABAPエンジニアの報酬・将来性などを含めたフリーランス案件市場を紹介してきました。SAPの理解が大前提となり、プログラミングスキルだけでは仕事にならないABAPエンジニアの特殊性、それ故の希少性から来る報酬の高さも理解できたのではないでしょうか?2027年に向けて案件が増加している今こそ、独立すべきいいチャンスなのかもしれません。