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会社員が加入する雇用保険には、労働者が抱えるリスクを軽減するための手厚い保障制度が用意されています。雇用を失った際の収入を保障する失業保険はその最たるものですが、失業者への早期就業を促す再就職手当が用意されていることを知っている方もいるかもしれません。まとまった金額を受給でき、就職祝金の意味合いもある再就職手当は、独立を検討するITエンジニアがフリーランス初期の活動を安定させるのにも有効です。しかし、そもそも個人事業主開業が再就職にあたるのか?疑問を感じる方も少なくないでしょう。

そこで本記事では、個人事業主として独立開業を検討するITエンジニアの方に向け、受給するための条件から、受給までのステップ・注意するポイントまで、意外と知られていない再就職手当に関する疑問を解説していきます。

雇用保険とは?

雇用保険とは、労働者を1名でも雇用したすべての事業者に加入が義務付けられる、強制社会保険制度です。雇用者、被雇用者双方で負担した保険料を財源とし、雇用を失った労働者の生活の安定・就職促進を目的にする「雇用安定事業」。雇用状態の是正・機会増大を目的にする「能力開発事業」を展開しています。アルバイト・パートなどの雇用形態を問わず、労働者であれば加入が義務付けられますが、使用者となる取締役・役員などは加入できません。同様に、労働者にならない個人事業主本人も雇用保険には加入できません。

雇用保険加入者が受けられる保障

雇用安定事業、能力開発事業を展開している雇用保険では、加入者である労働者の雇用不安を解消・保障するため、さまざまな給付金制度が用意されています。雇用保険に加入する労働者が利用できる、代表的な給付制度を簡単に解説していきましょう。

求職者給付(基本手当)

俗に失業保険ともいわれる求職者給付(基本手当)は、なんらかの事情で雇用を失った被保険者である労働者が、失業中の生活を心配せずに就職活動できるよう給付される手当です。受給の条件は以下の通りです。

・過去2年間で通算12か月以上雇用保険に加入している労働者
・倒産や解雇などが離職理由の場合は、過去1年間に通算6か月以上

どちらの場合も、離職直前の6か月で支払われた賃金をベースに給付額が決定され、加入期間・離職理由・年齢によって90〜360日分の失業保険を受け取れますが、失業保険を受け取れるまでに、7日間の「待機期間」が設けられているのが特徴です。また、自己都合で退職した場合は、給付開始が最大3か月先になる給付制限もあります。

就職促進給付(再就職手当)

就職促進給付のひとつである再就職手当は、失業保険の認定を受けた被保険者が、要件を満たして早期就職することで、支給残日数分の基本手当の60%、または70%をまとめて受け取れる制度です。インセンティブを与えることによって早期就職を促し、いたずらに失業期間を延ばさないようするための制度だといえるでしょう。

そのほかの就職促進給付には、再就職手当を受給した方の賃金低下分を補う「就業促進定着手当」。再就職手当の対象にならない方に給付される「就業手当」などがあります。

教育訓練給付

厚生労働大臣の指定した能力開発、キャリア形成教育などの受講費用を補助する給付金が、教育訓練給付です。対象となるのは、雇用保険に3年以上加入している労働者ですが、加入期間が1年以上あれば給付対象になるケースもあります。

雇用継続給付

雇用保険には、再就職した60歳以上の被保険者の賃金を保障する「高年齢雇用継続給付」育児休業、介護休業が必要な被保険者の生活を保障する「育児休業給付」「介護休業給付」などの雇用継続給付制度も用意されています。

個人事業主開業も再就職手当の対象

フリーランスとしての活動を検討するITエンジニアの方は、会社退職と個人事業主の開業が大前提となるため、対象となる雇用保険の適用給付は「基本手当」「再就職手当」となります。特に再就職手当の資格を満たす「再就職」の定義に「個人事業主の開業」が含まれているかどうかが気になるところでしょう。

ハローワークにおいて、再就職手当は「基本手当の受給資格がある者が、安定した職業に就き、一定の要件に該当する場合」に給付されるとしています。また、安定した職業については「雇用保険の被保険者となる場合、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合」という注釈が付いています。つまり、普通に再就職するケースのほかにも、個人事業主として開業する、法人を設立するケースでも再就職手当の給付条件を満たせることになります。

再就職手当の受給要件

では、再就職手当を受給するために必要な「一定の要件」とはなんでしょうか?以下に挙げる8つの要件、すべてを満たしていなければなりません。

①就職日の前日までに失業認定され、基本手当の支給残日数が所定給付日数の1/3以上ある
②1年を超えて勤務することが確実であると認められる
③待機期間満了後の就職である
④給付制限がある場合は、待機期間満了後の1か月については、ハローワークまたは許可・届出のある職業紹介業者による就職である
(ハローワーク・人材紹介会社から紹介で就職した場合に限る)
⑤離職前の事業主に再雇用されていないこと
⑥失業認定前から採用が内定していた事業者に雇用されていない
⑦就職日前3年以内の就職で、再就職手当・常用就職支度手当の支給を受けていない
⑧原則として、雇用保険の被保険者資格を取得する条件での雇用である

個人事業主が再就職手当を受給するステップ

雇用保険の保障・給付制度は、被保険者の保険料ですべてが賄われていることもあり、再就職手当の要件も非常に事細かに定められているのがわかります。ただし、過去に転職経験のない会社員エンジニアが独立するのであれば、気を付けておくべきポイントは「失業認定を受けて基本手当の受給資格を得る」「待機期間中に開業しない」「自己都合退職などで給付制限がある場合の対処を間違わない」の3つです。

特に、個人事業主として独立を検討しているエンジニアの場合は、ほとんどが自己都合退職になることが考えられます。ポイントを押さえたうえで、ステップを踏みながら手続きを進めていけば、再就職手当の受給はそれほど難しいことではありません。簡単に解説していきましょう。

ハローワークで求職申込・離職票を提出

まずは、所轄のハローワークに出向いて(1回目)求職申込を済ませて失業保険(求職者給付)の受給資格を取得しなければなりません。申込時に必要なのはマイナンバーを証明できる書類、免許証などの写真付き身分証明証、印鑑、3 × 2.5cmの写真2枚、本人名義の預金通帳またはキャッシュカードですが、忘れてはならないのが「離職票」です。

通常、離職票は会社からの届出を受けてハローワークが発行し、会社経由で離職した本人に届けられます。会社の手続きによっても異なりますが、離職の翌々日から10日以内に雇用保険被保険者資格喪失届けを提出決まりになっているため、約2週間を過ぎても届かないようであれば会社へ処理状況を確認する必要があるでしょう。催促しても離職票が届かない場合は、身分証明書と退職がわかる書類を持参して、所轄のハローワークに相談するのも可能です。

雇用保険説明会に参加

ハローワークで失業保険の手続きをすると、7日間の待機期間を踏まえ、もっとも早く参加できる「雇用保険説明会」の日程を指定されます。指定された日程に所轄のハローワークに出向き(2回目)給付までの流れ、不正受給にあたるのはどんなケースなのかなど、失業保険受給に関してのビデオ視聴や詳しい説明を受けます。

この際に、雇用保険受給資格者証明などの重要書類も配られるため、大切に保管するとともにしっかりと目を通しておきましょう。また、雇用保険説明会の日程は、待機期間が満了する以前を指定される場合もありますが、いずれにしても待機期間は失業保険の受給対象にならないことに注意が必要です。

ハローワークで初回失業認定

雇用保険説明会から、およそ2週間ほどで初回の失業認定日を迎えるため、失業申告認定書を提出するために所轄のハローワークに出向き(3回目)手続きを済ませます。この段階で、ようやく基本手当の受給資格のある失業者であることが認定されます。説明会から失業認定までに最低1回の就職活動を行ったか?アルバイト・パートなどでの収入があったか?などを報告する必要があるため、正直に回答しなければなりません。

個人事業の開業届を税務署に提出

ここまでで「失業認定を受けて基本手当の受給資格を得る」「待機期間中に開業しない」というポイントをクリアしたため、会社都合で退職したITエンジニアの方であれば、個人事業主として開業可能です。青色申告承認申請書とともに、個人事業の開業届を所轄の税務署に提出してしまいましょう。

ただし、自己都合で退職したITエンジニアの方は「給付制限がある場合の対処を間違わない」を守る必要があります。再就職手当の要件である「待機期間満了から1か月は、ハローワークまたは許可・届出のある職業紹介業者による就職」を満たせないからです。つまり、自己都合で退職したITエンジニアが個人事業主の開業届を税務署に提出できるのは「待機期間満了後 + 1か月経過後」です。これを守らなければ、再就職手当の受給要件を満たせなくなってしまうため特に注意が必要です。

ハローワークで再就職手当を申請

開業届を税務署に提出する前に、ハローワークに個人事業主として開業する旨を伝えておく方もいますが、開業してからまとめて再就職手当の申請をしてしまってもかまいません。所轄のハローワークに出向き(4回目)開業届のコピー、マイナンバーを証明できる書類、免許証などの写真付き身分証明証、印鑑、雇用保険受給資格者証明を提出し、再就職手当支給申請書に必要事項を記入します。

再就職手当の審査・事業継続の確認

再就職手当の申請後は、内容が正しいか要件を満たしているかの審査が行われ、約1か月後に「事業が継続して行われているかどうか」確認の電話が入ります。すべての確認が終了した後、1週間程度で再就職手当が指定口座に振り込まれます。

個人事業主が受給できる再就職手当の金額

それでは、個人事業主として開業したITエンジニアが受け取れる再就職手当の金額はどのくらいでしょう?これは失業保険の基本手当が、加入期間・離職理由・年齢・離職前の賃金によって異なるため一概にはいえません。ただし、個人事業主だからといって支給額が変わるわけではなく、支給残日数が多ければそれだけ支給額も増やせます。具体的な計算式は以下の通りです。

・所定給付日数が2/3以上残っている場合
基本手当1日分 × 支給残日数 × 70%
・所定給付日数が1/3以上残っている場合
基本手当1日分 × 支給残日数 × 60%

仮に、自己都合退職したITエンジニアの所定給付日数が90日、基本手当が6,000円であるとするなら、最速で手続きした場合の再就職手当額は「6,000 × 90 × 70% = 37万8,000円」となります。

まとめ

もちろん、基本手当を満額受け取った方が、総額としての金額が大きくなるのは事実です。しかし、自己都合退職であれば最大3か月間の給付制限を含め、90日間の基本手当を最後に受け取れるのは6か月以上先のことであり、定期的にハローワークへ就職活動を報告しに出向かなければなりません。それであれば、7日間の待機期間 + 1か月の間を独立のための準備にあて、スムーズに個人事業主として活動できるようにしておく方が得策です。案件獲得が安定するまでの備えとしても有効な再就職手当は、フリーランスとしての独立を検討するITエンジニアなら活用を検討するのに値する制度です。