自営業者が知るべき雇用保険のメリットや基礎知識について
雇用保険とは?
会社員として働いている方の場合は意識せずに自然と加入している雇用保険ですが、自営業者や個人事業主になったときにどうすればいいのでしょうか?
そもそも雇用保険とはどのようなものなのか、一度おさらいしておきましょう。
雇用保険とはどんな保険なのか?
雇用保険は労働者=社員を雇用する事業主が加入しなければならない保険です。雇用保険の目的は「労働者が解雇などの失業リスクを軽減する」ことです。そのため雇用者側、つまり自営業者として事業を行っている本人の場合は「労働者」ではないので、自営業者本人は雇用保険に加入することはできません。
雇用保険の加入条件
1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる従業員を雇った場合、事業主は雇用保険へ加入する義務が発生します。2020年現在では、65歳以上の従業員も雇用保険の適用対象になっています。
この「従業員」とは正社員に限りません。雇用形態がパートやアルバイトであっても、自営業者を含む事業主は従業員を雇用保険に加入させる義務があるのです。
雇用保険のメリットとは?
労働者の方が雇用保険のメリットは多そうに思えますが、自営業の経営者側にとってのメリットはどのようなものがあるのでしょうか?
労働者側のメリットも合わせて整理してみましょう。
経営者側のメリット
「社員を雇用したら自営業を含む事業者は雇用保険に加入する義務がある」のが雇用保険です。これは義務であると同時に、経営者側にとってのメリットも存在します。
一つ目のメリット:会社の社会的な信頼性を担保する指標の一つ
雇用保険はいわゆる「社会保険」に含まれるものです。万が一失業してしまった時に失業手当などが受け取れるかどうかは、労働者にとって非常に重要です。募集要項に雇用保険などが完備されていることが明記されている場合は、そのことに安心した求職者が応募するという判断をしてくれる可能性もあります。
二つ目のメリット:事業者に対する助成金の存在
コロナ禍において名を知られるようになった「雇用調整助成金」は、景気や産業構造を含む不可抗力の大規模な社会変化、その他経済上の理由によって自社の経済活動・事業活動を縮小あるいは自粛しなくてはならなくなった場合に給付される助成金です。
従業員を解雇せず、休業または教育訓練や出向といったあくまでも一時的な雇用調整をしたうえで従業員の雇用を維持した場合に、「雇用保険を適用している事業主」に給付されます。
万が一やむを得ない事情により従業員を解雇した場合、ハローワークに従業員の再就職支援を依頼したり、再就職のための職業訓練を教育施設・期間に委託したりする場合は、「労働移動支援助成金(再就職支援コース)」が給付されます。
「労働移動支援助成金」には「早期雇入れ支援コース」も設定されています。
「労働移動支援助成金(早期雇入れ支援コース)」は再就職援助計画の対象となっている労働者を、離職後翌日~3ヵ月以内に「期間の定めなく」雇い入れた上で、対象者を一般被保険者または高年齢被保険者として雇い入れた場合に給付される助成金です。
他にもある事業者に対する助成金
上記の助成金以外にも、「就職を希望する未経験者」を試行的に雇い入れた場合は「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」が給付されます。
また、障害者を試行的、または段階的に雇い入れた場合には「トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)」が給付されるなど、様々な雇用活動に対応する助成金が用意されています。
労働者側のメリット
事業者側だけではなく、雇用保険には労働者にとってもメリットがあります。
一つ目のメリット:失業手当が受けられる
もっとも大きなメリットの一つは「失業手当」が受けられるようになることです。
労働者が雇用保険に加入すると、毎月一定額が給与天引きで差し引かれることになります。手取り金額が減ることになるため、パートなどで働く方の場合は労働時間を調整して雇用保険への加入しないようにする方も稀にいるのですが、加入しておくほうがおすすめです。
仮に何らかの事情(職場の縮小や倒産、自身の病気療養など)で働けなくなった場合に、
・離職後、ハローワークに来所して求職申し込みを行い、働く意思と能力があるが「失業状態」である
・離職前の2年間で、1か月あたり11日以上働いた月が通算12か月以上ある
という条件を満たせば再就職までの一定期間、失業手当を受け取ることができるからです。
二つ目のメリット:複数の給付金制度を利用できる
雇用保険に加入していた労働者は失業手当以外にも、いくつかの給付金を受けとることができる場合もあります。
例えば以下の給付金です。
・再就職手当
・就業促進定着手当
・就業手当
これらの給付金受け取りには一定の条件を満たす必要がありますが、雇用保険に加入していない場合は受け取れない給付金です。
雇用保険は自営業を含む経営者にも、労働者にもメリットがある
ここまで紹介した給付金以外にも、下記のような複数の助成金制度があります。
・「中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)」
→中途採用を拡大した場合に給付。
・「中途採用等支援助成金(生涯現役企業支援コース)」
→中高年齢者(40歳以上)の方が起業(自営業含む)して中高年齢者などを雇用した場合に給付。
・「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」
→60~64歳の高年齢者や障害者、シングルマザーなど「就職困難者」を雇用した場合に給付。
・「特定求職者雇用開発助成金(被災者雇用開発コース)」
→東日本大震災による被災離職者や被災地求職者を雇用した場合に給付。
雇用保険は労働者にとってのメリットが大きいものだと思われがちですが、実は自営業含む経営者にも大きなメリットがあるのです。
雇用保険の手続きは?
実際に雇用保険へ加入するためにはどのような手続きが必要なのでしょうか?経営者側と労働者側、双方の手続きについて確認していきます。
経営者側の手続き
1.労働者を初めて雇用する場合
労働者を初めて雇用することになった場合に、その労働者が雇用保険の適用対象であれば、自社の事業所を管轄するハローワークに「事業所設置届」、「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。
2.労働者を追加で雇用する場合
事業が継続し、成長していく中で労働者を新たに追加で雇用した場合は、改めて事業所を管轄するハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。ハローワークから交付される「雇用保険被保険者証」は必ず労働者本人に渡す必要があります。
3.労働者が離職した場合
雇用保険被保険者である労働者が離職した場合は、雇用主が「雇用保険被保険者資格喪失届」と、給付額等の決定に必要な「離職証明書」を提出することになっています。「離職証明書」の離職理由が自営業などの事業主と離職者で主張が異なることがありますが、この場合はハローワークが事実関係を調査し、その後に離職理由を判定します。
4.その他
事業所の名称や所在地などが変更になった場合、また同一の事業主の事業所間で転勤させる場合にもハローワークとの手続が必要になります。
労働者側の手続き
雇用保険への加入手続きは労働者が直接行うことはありません。
自営業者など事業を営む事業主は、労働者が雇用保険の加入手続が正しく行われていることを確実に把握できるようにする義務があります。
事業主は「資格取得届」を、雇用保険の被保険者となった日の属する月の翌月10日までに提出し、その対象となる労働者が被保険者となったことについての確認を公共職業安定所(ハローワーク)の長から受けなければいけません。
この確認がなされると「雇用保険被保険者証」とあわせて「雇用保険資格取得等確認通知書(被保険者通知用)」が交付されます。これは労働者が雇用保険の加入手続が正しく行われたことをきちんと確認できるようにするためのものです。
自分が雇用保険の被保険者になっているかどうかについては、この通知書を交付してもらうことで確認しましょう。交付されていない場合は事業主、雇用主に対して要望しましょう。
事業主に直接質問することが難しい環境にいる場合は、自分でハローワークに問い合わせて確認することも可能です。
「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」という用紙に必要事項を記入し、本人または代理人によるハローワークへの訪問、もしくは郵送でハローワークに提出します。なお、電話による照会はトラブルのもとになるおそれがありますので応じてもらえません。注意しておきましょう。
まとめ
自営業者などに代表される経営者=事業主にとっても、雇用される側の労働者にとっても重要な雇用保険について解説しました。
事業主にとっては正しく理解し加入手続きをすることで、行政から様々な助成金を受け取れるというメリットがあります。
労働者にとっては失業手当を含め、個人の状況に応じて再就職に向けたサポートや給付が受けられるメリットがあります。
事業主にも労働者にも等しくメリットがある雇用保険は、正しく理解することで自営業者の事業展開にも良い影響をもたらします。雇用保険に代表される社会保険を正しく理解していることがアピールできれば、高い能力をもった労働者を雇用して事業の業績を伸ばす可能性を高めることができます。
労働者を大切にしていることが理解されれば、社会的な信用も高まり事業自体を評価してもらえることにもつながります。
事業計画の中で従業員を雇用する可能性がある場合は雇用保険について正しく理解し、活用できるポイントを把握しておきましょう。