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個人事業主の登録方法は開業届を提出するだけ

スキルに自信のあるエンジニアなら、実力次第で高収入が期待できる個人事業主という道を検討しているかもしれません。しかし、個人事業主として開業する登録方法がわからない、あるいは、安定した会社勤務から個人事業主に転身するメリットがわからないなどで二の足を踏んでいる方も少なくないでしょう。

しかし、心配する必要はありません。煩雑な手続きが必要な法人設立と異なり、個人事業主の登録方法は開業届を提出するだけなのです。それでいて大きなメリットが得られる個人事業主の具体的な登録方法とは?知っておきたい注意点、フリーランスはどうすべきかなど、知っているようで知らない個人事業主に関する疑問に答えていきます。

個人事業主の定義とは?

開業届を提出する必要があるのは、事業をしている人=個人事業主だけです。では個人事業主とはどのような人たちなのでしょう?事業には「反復・継続・独立した仕事」という定義があり、これを当てはめて考えると個人事業主とは「反復・継続・独立した仕事をする個人」と定義付けられます。国税庁では、小売・卸売・賃貸・運送・請負・加工・美容などの具体例を挙げており、弁護士などの士業・医師なども個人事業主に含まれます。事業主以外に従業員を雇用していても法人化されていなければ、個人事業主として扱われるのも覚えておくといいでしょう。

フリーランスは個人事業主?

一方のフリーランスは、特定の組織に所属せず、単発・長期などの案件ごとに業務契約を締結する働き方であり、エンジニアをはじめミュージシャン・デザイナー・ライターなどの職種が当てはまります。ここで注意しておきたいのは特定の組織に属せず、フリーランスとして生計を立てていく場合も個人事業主の定義に当てはまるということです。つまり、個人事業主の働き方のひとつともいえるフリーランスは、開業届を提出しなければならないということです。

開業届とは?

開業届とは「個人事業の開業・廃業等届出書」という正式名称を持つ申請書類の略称・俗称であり、個人が事業を開業したことを税務署に知らせるための申請書類です。従業員を雇用するのでなければ、個人事業主として登録するのに必要な提出書類は開業届のみであり、申請費用なども一切かかりません。開業届は事業を開始した日から1か月以内に提出用・控え用の2部を所轄税務署に提出しなければならず、届出は所得税法で定められた事業者の義務です。罰則規定などはありませんが、開業届の提出は任意ではないことに注意が必要です。

開業届の役割

事業を開始すれば、事業所得税の支払い義務が発生し、課税事業者であれば消費税の支払い義務が生じる場合もあります。開業届によって事業の開始を通知しておけば、税金に関する重要な通知を受け取れるようになります。また、提出した開業届の控えは受付印とともに返却されるため、控えを「個人事業主の開業証明」として利用できます。銀行口座の開設や融資など、開業証明を求められる場面で利用できます。

開業届の提出・個人事業主の登録方法

個人事業主としての登録方法は開業届を提出するだけです。開業届は最寄りの税務署窓口で入手できるほか、国税庁のWebサイトでもダウンロードすることができます。ダウンロード版の開業届は、提出用に入力すれば控え用にも同じ内容が自動転記されるため、有効活用するといいでしょう。開業届の提出は所轄税務署窓口への持参のほか、郵送や時間外受付も利用できるため、営業時間内に訪問が難しい方でも登録方法を選択できます。

開業届の記入欄には以下のような項目があります。不備のないように記入しましょう。

・納税地

・税務署

・提出日

・氏名

・個人番号(マイナンバー)

・職業

・屋号

・届出の区分

・所得の種類

・開業日

仕事場が別にあったとしても、納税地は事業主の住所になることに注意が必要です。屋号は省略してもかまいませんが、登録しておけば屋号名での銀行口座開設・クレジットカード作成などが可能になります。開業日に関しては特別な決まりごとがないため、覚えやすい日付などで自由に設定できます。

個人事業主として開業するメリット

手続きや登録方法が簡単な個人事業主の開業ですが、確定申告が必須であり事業所得税、場合によっては消費税の支払い義務などが生じるのも事実です。会社員として組織に属しているよりも明らかに手間は増えますが、実力に応じて事業所得を増やせるのはスキルに自信のあるエンジニアにとって大きな魅力だといえるでしょう。もちろん、個人事業主として開業するメリットはそれだけではありません。

青色申告できる

開業届を提出して個人事業主として登録すると、確定申告の際に青色申告できます。青色申告すれば事業所得から最大65万円が控除されるため、大きな節税効果が得られるでしょう。事業主と生計を共にする家族・親族の給与を、必要経費として計上できるのも青色申告のメリットです。

青色申告するには、開業届を提出したうえで「青色申告承認申請書」を所轄の税務署に提出する必要があります。開業日から2か月以内の提出が求められるため、開業届と同時に青色申告承認申請書を提出してしまうのがベストでしょう。申請書は税務署の窓口での入手・国税庁Webサイトからのダウンロードが可能であり、開業届に準じているため作成・登録方法は簡単です。

必要経費を控除できる

個人事業主であれば、青色申告控除のほかに事業に関連する必要経費も税金から控除できます。組織に属する会社員であっても基礎控除はありますが、医療費や保険以外は経費として控除できないのが基本です。一方、個人事業主であれば「事業所得 - 必要経費 - 青色申告控除 = 課税所得」となり、事業にかかったさまざまな費用を必要経費として計上できます。

具体的には営業・打ち合わせにかかった交通費や消耗品費、交際費などが挙げられるほか、自宅を事務所にしていれば事業比率に応じて賃貸料を経費計上できます。インターネットなどの通信費や携帯電話、電気、ガス、水道なども同様であり、PC調達を設備費として計上するのも可能です。

赤字を繰り越せる

個人事業主が青色申告することによって得られるメリットのひとつに、最長3年間赤字を繰り越せることが挙げられます。具体的には、上述した課税所得がマイナスいわゆる赤字になった場合、翌年以降に生じた課税所得の利益分から繰り越した赤字分を差し引けるのです。もちろん事業で損失が生じるのはいいことではありませんが、開業初年度や設備投資で経費がかさんだ年度の損失を繰り越せるため、節税面でも非常に有効だといえるでしょう。

必要に応じて提出したい申請書類

開業届・青色申告承認申請書を提出した個人事業主は数多くのメリットを享受できますが、従業員を雇用する個人事業主の場合は、申請書の追加提出によってさらなるメリットが得られます。以下からは、事業の運営状況によって追加で提出しておきたい2つの申請書類を紹介しておきます。

青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書

青色事業専従者を雇用する個人事業主は「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」を税務署に提出することで、給与を必要経費として計上できます。

・青色申告者と生計を共にする配偶者や親族

・申告年の12月31日現在で満15歳以上の者

・申告年に青色事業者が営む事業に半年以上携わっている

以上の条件を満たす従業員が青色事業専従者となります。日々の経理処理・記帳・事務業務を配偶者などに任せられるなら、個人請負の多いエンジニアでも大きな節税効果が得られるでしょう。

源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書

雇用する従業員の給与源泉所得税は、毎月支払うのが基本になりますが「源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出すれば、毎月の納税を半年ごとの納税に変更できます。納税の手間を1/6にできるメリットの大きい申請書ですが、雇用する従業員数が10名以下に限定されていることには注意が必要です。

個人事業開業時に気を付けておきたいポイント

ここまでで、個人事業主としての登録方法や、開業届を提出することによって得られるメリットなどを紹介してきました。手続き・登録方法自体が簡単で拍子抜けした方も多いかもしれませんが、留意しておくべき点がないわけではありません。以下からは、個人事業開業時に気を付けておきたいポイントを具体的に解説していきます。

開業届・青色申告承認申請書の提出期限

本文内でも触れたように、開業届・青色申告承認申請書には提出期限が定められています。提出期限を過ぎてしまったらどうなるのでしょうか?開業届には提出期限超過に関する罰則規定がないため、後日提出でも受付けてもらえます。しかし、開業届を提出していなければ青色申告できないため、個人事業主が享受できるメリットは限りなくゼロになると考えておいた方がいいでしょう。確定申告自体はできますが、税制上の優遇が薄い白色申告になってしまいます。

開業届は提出したものの、期限内に青色申告承認申請書を提出しなかったというケースでは、開業初年度に青色申告できない可能性があります。期限に余裕があるからといって提出を後回しにしてしまうと、税制上の優遇措置を受けられません。青色申告承認申請書は、開業届と同時に提出するのがベストです。

国民年金・国民健康保険への切替え

厚生年金・健康保険完備の組織に属していたエンジニアが個人事業を開業する際は、厚生年金から国民年金へ、また組織の健康保険から国民健康保険への切替えが必要です。いずれも退職から14日以内に、居住している市区町村役場で手続きする必要があります。手続きには年金手帳、健康保険資格喪失書、印鑑、身分証明書が必要になるため、年金手帳を会社に預けている方は返却を確認しておくなど万全の準備を整えておくべきでしょう。

確定申告に備える

青色申告承認申請書を提出した個人事業主であれば税制上の優遇措置を享受できますが、確定申告に備えた複式簿記での帳簿作成、領収書などの整理・保管が必要です。経理を経験してこなかったエンジニアの方にはハードルが高いかもしれませんが、節税に向けて必要な書類であり保存しておくべき期間も定められているため、おろそかにするわけにはいきません。

幸いにもリーズナブルなクラウドサービスが多数存在しているため、使いやすそうなツールを選んでおくのが重要です。個人事業主向けにリーズナブルな料金を用意する税理士事務所も少なくないため、相談してみるのもひとつの方法です。また、事業をスムーズにするため見積書・納品書・請求書などの取引先向け書類や、売掛帳・買掛帳なども準備しておくべきでしょう。

まとめ

働き方・価値観の多様化にともない、フリーランスという選択に抵抗がなくなってきているのが現状ですが、反復・継続・独立した仕事をする個人である限りフリーランスであっても個人事業主として登録しなければなりません。一方、本記事でも紹介したように個人事業主として開業するための手続き・登録方法は簡単であるうえ、税制上の優遇措置を受けられる大きなメリットがあります。本記事を参考にしながら、是非手続きを進めてみてください。