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エンジニアの契約形態は多様

エンジニアとして仕事をするための契約形態としては、雇用契約、労働者派遣契約のほか、業務委託、そしてIT業界特有のSES契約などがあります。企業に所属する形になる雇用契約は、フリーランスに関係が薄いと思われるかもしれませんが、期間に定めのある雇用契約もあります。それぞれの違いを把握し、内容に納得したうえで契約を締結しなければ、後々のトラブルの原因となりかねません。

そこで本記事では業務委託を中心に、フリーランスエンジニアなら知っておきたい契約に関する基礎知識を解説するとともに、契約締結時に注意しておきたいポイント、単価交渉を有利に進める方法なども紹介していきます。

フリーランスエンジニアは業務委託が基本

業務委託とは、クライアントとなる企業と対等の立場で業務の依頼を請負う契約形態であり、フリーランスエンジニアが締結するもっとも一般的な契約形態でもあります。自社内で遂行の難しい業務、外部の専門家に任せた方が効率的な業務などを、プロジェクトごとにアウトソーシングする方法として定着しており、雇用契約のように「雇用者」「労働者」の関係性がないのが特徴です。契約形態として一般的になった業務委託ですが、民法には「業務委託」という契約は存在せず「請負契約」および、委任・準委任に分類される「委任契約」の総称として使われている俗語です。

請負契約とは?

契約の目的を仕事の完成とし、予期した結果にならなければ報酬請求権が生じない契約形態が「請負契約」です。2号文書・7号文書にあたる契約書、報酬額に応じた収入印紙が必要であり「契約不適合責任」があるのも請負契約の特徴です。具体的には、仕事の完成である成果物を定義し、成果物の納品ができない限りは報酬を請求できないという契約です。成果物が定義された基準に満たない場合、追完、報酬減額、損害賠償などを請求されるリスクがある一方、指定がなければ完成までのプロセスが問われることはありません。

企業間での大規模システム開発案件などで請負契約が締結されるほか、Webサイト制作・小規模システム開発案件、要件定義から詳細設計までといった部分的な開発をフリーランスが請負うこともあります。

準委任契約とは?

「委任」「準委任」に分類される委任契約とは、仕事の実行を契約の目的とし、仕事が実行されれば報酬請求権が生じるという契約形態です。委任・準委任の違いは「法律行為の有無」であり、弁護士や税理士などへの依頼で使われる委任契約に対し、エンジニアへの依頼では準委任契約が適用されます。請負契約と異なり、仕事が完成しなくても契約内容に従った仕事を実行していれば報酬を請求できるのが特徴です。

ただし、準委任契約にも「善管注意義務」という責任があることには注意が必要です。技術提供というエンジニアの専門性、社会的地位などを鑑みて、客観的・一般的に期待される注意義務が求められます。

派遣契約・SES契約は準委任契約となにが違う?

フリーランスエンジニアの場合、エージェントからの案件紹介を受けて客先常駐で仕事する、クライアントからの要請を受けて案件を客先常駐で手伝うなどのケースでは、準委任契約を締結するのが一般的です。このケースでは、報酬の対価となるのは技術提供という「労働力」であり、仕事の完成は求められません。では、同じように客先常駐で働く派遣契約・SES契約は、準委任契約となにが違うのでしょうか?

派遣契約・SES契約ともに、エンジニアは派遣元企業と雇用契約を締結するのが基本です。つまり、雇用者・労働者の関係性がある点で、労働者が準委任契約を締結しているとはいえません。また、派遣契約では指揮命令権がクライアント側にあるのに対し、SES契約では指揮命令権は派遣元企業にあるという違いもあります。

契約時に知っておきたい法律

ここまでで解説したように、フリーランスエンジニアが案件を受注した際には、大きく「請負」「準委任」のどちらかで契約を締結します。もちろん、クライアントとの間にエージェントが入る場合でもそれは変わりません。案件が獲得できるなら、すぐにでも契約書にサインしたいと考える方もいるかもしれませんが、フリーランスの働き方は一般的な労働者とは異なります。自分自身が不利な立場に置かれないためにも、契約に関する最低限の法律を知っておくべきでしょう。

業務委託は労働法関連の適用外になる

請負契約であれ、準委任契約であれ、雇用者・労働者の関係性を持たず、発注者と受注者が対等の立場で業務を遂行するのが業務委託です。逆にいえば、雇用者・労働者の関係性のない業務委託は、労働者を保護するのが目的である労働法関連の適用外になることに留意が必要です。特に契約不適合責任のある請負契約では、定められた基準を満たす成果物を完成させるため、上限なしで働かなければならない場合もあります。こうしたケースでも労働法や36協定などによる労働者の保護は得られないのです。

一方、契約書を交わしていても、実態が優先されるのは覚えておいた方がいいでしょう。たとえば、クライアントが指揮命令している、細かいルールを受注者に強要しているなど、業務委託に沿わない実態がある場合は、労働基準法が適用される可能性があります。自分自身が不利な立場に追い込まれないよう、うまく立ち回れるようにしておきたいものです。

下請代金支払遅延等防止法

フリーランスの契約は法律で守られていないというわけではありません。下請代金支払遅延等防止法、いわゆる「下請法」によってフリーランスの取引は守られているのです。資本金1,000万円を超えるクライアントから業務を受託した場合、その取引は下請法の対象となり、支払遅延の禁止、受領拒否の禁止、代金の減額・返品の禁止などが委託する側の事業者に課せられます。また、下請法では委託側に書面の交付義務も課しています。契約内容で不利益を被らないためにも、受託側もしっかりとした契約書の交付を要求すべきでしょう。

契約時に確認すべきポイント

ここまでで、フリーランスが締結する一般的な契約形態とその特徴、契約に関連する知っておきたい法律などを紹介してきましたが、もっとも重視しなければならないのは契約書の内容です。条項の一部を見逃してしまったためトラブルが発生してしまった、などということにならないよう、しっかりと契約書の内容を確認しておく必要があります。

契約形態

真っ先にすべきことは契約形態の確認です。請負契約なのか、準委任契約なのかによって、受託者であるエンジニアの働き方や責任の度合いは大きく変わってきます。クライアントとの認識にズレが生じないようにするためにも、契約形態はハッキリさせておくべきポイントです。

エージェントを通じて業務を受託する場合は、準委任契約であるのが一般的ですが、安心していてはいけません。準委任契約にあるはずのない「成果物の納品義務」が紛れ込んでいる可能性があるからです。「不具合を無償で改修する」などの文言がないかどうかも確認しておくべきポイントです。請負契約でなければ、契約不適合責任は生じないはずだからです。

報酬単価

請負契約であれば成果物に対する報酬を、準委任契約であれば月額報酬単価を、消費税や報酬の前提となる稼働率を含めて細かく確認しておくべきでしょう。たとえば、消費税込みの価格なら「税込」表記が必要ないのが一般的ですが、委託側・受託側の認識が一致しているとは限りません。税率が10%となった現在では、この認識の違いがトラブルに発展する可能性もあります。

エージェントが用意した契約書が、テンプレートを修正しないまま提示される可能性も考えられます。週4日稼働で契約を締結するにもかかわらず、週5日稼働を前提にした報酬が記載されているかもしれないのです。少しでも疑問に感じる点は、契約締結前にすべて明確にしておくべきです。

業務内容

請負契約であれば成果物の細かい定義、納期、納品方法、検収方法、検収期限、業務上の取り決めなどを、準委任契約であれば稼働日・時間、業務範囲などの具体的な業務内容を細かく確認しておく必要があります。特に準委任契約であれば、契約書の有効期限を含む契約期間、契約延長の有無、延長する場合の方法、契約の自動更新条項があるかなども明確にしておくべきです。

税金の取り扱い・報酬の支払方法・時期

源泉所得税など税金に関する取り扱い・支払方法や、報酬の支払期限・支払方法などが明記されているかどうかも、契約書を確認する際のポイントのひとつです。クライアントやエージェントによって異なりますが、末締め・翌末払いのように、30日程度のサイトが採用されているのが一般的であり、問題ないレベルだといえます。しかし、予算の厳しいプロジェクト・企業ではサイトが極端に長期化するケースもあり、受託側のリスクも高くなりがちなことを覚えておかなければなりません。

経費の取り扱い

業務を遂行するうえで必要な経費は別途請求なのか、報酬に含まれるのか、支払期限・方法を含め、契約書に明記されているかどうか確認しておくべきでしょう。特に準委任契約で客先常駐するケースなどでは、交通費の扱いは非常に重要な要素です。一般的には、報酬単価に交通費が含まれる場合がほとんどですが、報酬を大きく圧迫するほど交通費がかかってしまうのでは割にあいません。

報酬の単価交渉は可能?

クライアント企業が業務委託を選択するのは、自社内での業務遂行が難しいということのほかに、繁閑期に応じて稼働人数を最適化したい、採用・教育コストを抑えて優秀な人材を確保したいという思惑があります。つまり、企業はできるだけ業務委託にかかるコストを抑えたがっており、フリーランスに転身したばかりで仕事が欲しいエンジニアの方は、クライアントの言いなりになりがちです。しかし、技術力が売り物のエンジニアにとって、報酬額はイコール自身の市場価値に直結します。場合によっては、契約締結前の単価交渉も視野に入れておくべきです。

クライアントの信頼を得るには?

たとえば、クライアントから異常に低い報酬額を提示されたのであれば、一般的な相場観、具体的な報酬額を提示しながら丁寧に説明し、単価アップが可能かどうかを検討してもらうのがいいでしょう。明らかに対価が見合わないのであれば、断りを入れるのもひとつの方法です。ただし、実力のわからないフリーランスに、最初から高額な報酬を提示するクライアントがいないのも事実です。適正な価格で案件をこなしながらクライアントの信頼を獲得し、徐々に単価アップを交渉するのがおすすめです。

具体的には、成果物の完成度を高める、納期よりも早めに完成させる、相手の要望に迅速に対応するなど繰り返し、スムーズにコミュニケーションできるようになれば、お互いに納得したうえで交渉をスムーズに進められるでしょう。

まとめ

フリーランスとして事業を成長させていくためには、エンジニアとしてのスキル・技術を磨くのはもちろん、営業・税金を含む経営面に関する知識も身に付けなければなりません。特に働き方・報酬に直結する契約の知識は、知っていると知っていないでは、その後の展開が大きく異なってしまう重要な要素です。不利な条件で案件を受託してしまわないためにも、契約形態の種類・違い・特徴をしっかりと学び、把握しておくのが重要です。