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コロナ禍と厳しさを増す経済・求人環境

コロナ禍のダメージ

コロナ禍が世界の経済に大きなダメージを与えています。大和総研によると、新型肺炎による実質GDPへの影響は、短期終息(春先)を想定する「メインシナリオ」を想定してもマイナス4.5兆円程度と試算されています。これは、2011年の東北大震災の3月から5月の3ヶ月間のマイナス2兆円をはるかに上回っています。(新型肺炎拡大による日本経済への影響度試算「短期終息シナリオでも実質GDPは4.5兆円程度減少 2020年03月06日」(株式会社大和総研)より)
また厚生労働省は、ハローワークにおける求人、求職、就職の状況をとりまとめた一般職業紹介状況として毎月公表していますが、それによれば令和2年6月の有効求人倍率は1.11倍となり、前月を0.09ポイント下回りました。また6月の新規求人は前年同月と比較すると18.3%減となり、産業別では宿泊業,飲食サービス業が29.4%減、生活関連サービス業,娯楽業では34.8%減と依然として厳しい状況が続いています。(一般職業紹介状況(令和2年6月分)について 厚生労働省)

IT業界の求人状況は?

しかしIT業界に目を移すと、コロナ直後に比べてエンジニアの転職意欲・企業の採用意欲は回復傾向が見られます。(「Findy」がコロナ禍のエンジニア採用市場の実態調査 - コロナ直後に比べエンジニアの転職意欲・企業の採用意欲は回復傾向)
元々他の職種に比べて圧倒的に売り手市場であり、リモートワークにも適しているIT関連の人材、特にエンジニアやフリーエンジニアの求人市場が、今後も急速に縮小すると見ている人は少なく、一時的には急減しても、他の業界に比べて回復も早いと考える意見が多いようです。いつかは収束・回復するであろう今後のビジネス環境に向けて、今こそ優秀な人材を採用するチャンスであるとして、大幅に採用を強化している企業も多く見受けられます。エンジニアの採用は今後のIT企業の命脈を保つ上で不可欠であり、自社開発であれ受託開発であれ、今後、長期に渡ってエンジニアの求人が著しく少なくなるとは思えません。
むしろ重要なのはエンジニア求人市場の「大きさ」よりも「質」の変化は避けられないだろうということでしょう。コロナ禍を経験した後に、各企業における働き方が一層変化することは確実であると思われるためです。

フリーエンジニアにはチャンスも

フリーエンジニアについてはどうでしょうか。従来取引先の業務停滞や規模縮小によるリスクはもちろんありますが、一方でフリーエンジニアが従来よりも業務を受注しやすくなっている傾向もあるようです。理由は、大手を中心に、従来は厳しい管理体制で持ち帰りのできなかった業務に見られる変化です。緊急事態宣言下などの厳しい状況で在宅勤務やリモートワークで実施できるように、ソフトウェアキーによる端末防護やVPN、クラウド環境の一層の整備によって、一段上のセキュリティ確保に努めるところが出ています。構内への常勤技術者派遣を中心にしていたSES(システムエンジニアリングサービス)などでも、在宅勤務できるフリーエンジニアも含めて多く募集するようになってきている傾向があると思われます。ある意味ではフリーランスのエンジニアにとっては、在宅のリモートワークで従事できる仕事の幅が広がってきているとも言えますし、逆に言うとこうした体制を進めてでも、仕事を継続せざるを得ない大手側の事情もあるということです。従来にはあり得なかった、大きな変化が起きている激動の時代のゆえでもあります。

働き方と採用方法の変化

変化する採用環境

言うまでもなく、新型コロナウィルスに関する緊急事態宣言以降、私たちの生活のあり方は激変しました。IT業界における一層のリモートワークの進展など働き方や求人や採用、企業を選ぶ場合の基準にも変化が現れており、採用面接をオンラインで行う企業は激増しています。ZOOMやGoogle Meet、Teamsといったリモートワークツールを、面接にも利用する企業が多くなっています。特にIT業界では「全てを対面(オフライン)で面接する」企業は少なくなっており、「対面」と「オンライン」のミックス、あるいは「オンラインのみ」とする企業が多くなっています。
もとより、IT業界における企業の特質として、IT関連の製品やサービスの開発や運用を主たる業務としている以上、社員をオンライン勤務体制に移行させることにさしたるハードルがないことがあります。そうした職場環境の変化を見越せば、採用に際してもオンライン面接を中心に取り入れるのは当然の流れでしょう。また求人の際にも、特にプログラマーやエンジニア、フリーエンジニアは、在宅でのリモートワークが可能な企業を希望する傾向が強くなっています。そうした人材を採用する上で、企業サイドが多様な新しい働き方に対して積極的な姿勢を見せることで、他社に対して差別化できる効果が生まれる効果が見込めます。これに反して、求人や採用の面接においてオンラインの要素を全く考慮しない企業は、求職者の側からそっぽをむかれることにも繋がります。今はまさにコロナ禍の時代にふさわしい新しい働き方を、求職側も求人側も模索している段階であると思われます。

ピンチをチャンスに

未経験者求人の状況

そうした中でも、コロナ禍にあってはIT業界における未経験者の求人が、経験者への求人に比べて少なくなっているということを指摘する声もあります。(コロナ禍転職不況、中でも「特に厳しい意外な人材」とは?(2020年7月2日 ITmediaビジネスONLINE)
それによれば、未経験者を採用する場合、教育投資が確実に必要になるため、経験者の場合に比べて収益を確保できる時期が遅れることになるという、従来からの認識が、コロナ禍では一層厳しく意識されているのではないかということです。未経験者は即戦力にならず教育コストもかかるため、景気の下降局面ではどうしても求人採用の後回しに、経験者に比べて企業内での短期間で見たトータルの対比用効果が高くなく、景気回復の見通しが立たない状況では敬遠されてしまいがちであるとしています。

人材確保のチャンス

一方で、この時代にふさわしい教育の手法を見出した企業こそが、将来性のある新卒求職者を大量に採用できる可能性にもつながってきます。筆者の見聞きした範囲では、あるIT関連の企業でリーマンショック時代の厳しい時代に採用した新卒・経験者が非常に優秀であった記憶から、コロナ禍の現在はまさにそうした優秀な人材を確保するチャンスであるとして、新卒未経験者、経験者を問わず大量に面接を行なっているということでした。採用後に経験者による教育体制をしっかり構築できる実績や経験のある中小企業にとっては、優秀なプログラマーやエンジニア、フリーエンジニアを獲得するチャンスの時代であり、IT関連企業への就職や転職を考えている人は、このような企業もあることを念頭において求職活動をするべきだと思います。

オンラインの時代にふさわしい人材とは

変化する人材ニーズ

これまで見てきたように、コロナ禍以後の働き方の変化と各企業の勤務体制の変化に伴って、IT業界を含めたあらゆる業界において業務のオンライン化のニーズは急激に高まっています。徹底した在宅勤務化に突き進む大手企業では、エンジニアの求人採用を加速している企業も多く見受けられます。またフリーエンジニア の活躍できる業務も広がっています。求人企業側でも、様々なリスクを伴うオフィス出勤なしに、在宅で開発体制を加速化することにより、一連のコロナ禍が過ぎ去った後で他社に比べて機先を制するためにも、面談だけではなく、新しいリモートワークの体制に最適化できる人材を積極的に採用することへと求人活動の着目点が変化していくと思われます。

オンラインへの適応力

IT業界への就職や転職を検討している人達にとっては、オンライン面接やオンライン勤務の技術的なハードルはさほど高くないかもしれません。ただしそれはあくまでもツールを使う技量に関するもので、自然な形でオンラインのリモートワークに馴染める人材となるとまた別になるでしょう。「DIAMOND ONLINE」によると、登校できず家で孤独にオンライン授業を受けている大学生が、不安定な精神状況に陥っていると言われております。それによれば、新入学したばかりの大学で、新しい同級生や教師に直接会うこともできず、ひたすら自宅でパソコンを前にして孤独に課題に取り組んでいる大学生の状況が問題とされています。社会人として勤務するエンジニアや在宅で働くフリーエンジニアとも無縁とは言い切れません。
慣れないオンラインのリモートワーク環境に身を置くことになる環境は、おそらくほとんどの人にとって未知の経験です。こうした経験に対してどのように順応し、自分から状況を理解し、必要に応じてネットワークを通じて同僚や上司、リーダー、クライアントと意思を通じていく能力は、これからのIT業界に(ITだけではありませんが)望まれる能力でしょう。技術的習熟度や成長性と合わせて、今後の求人の一つの基準になるのではないかと思われます。

まとめ

コロナ禍で経済の環境が厳しくなりつつある中でも、IT業界の求人環境の見通しは著しく悪化することはないと思われます。しかしコロナ以前の時代に比べて、働き方や採用体制、人材に対して求める能力は大きく変わることが予想されます。この激しい時代を生き抜いていくためには、企業が採用に際して求めているものを理解し新しい勤務体制に順応力のある人材が歓迎されることでしょう。また求職側でも、そうした新しい時代にふさわしい環境を想定して体制を整え求人を行なっている企業を探していくべきであると思われます。未経験者にとっては厳しさが増す一方で、従来はなかなか従事できなかった新しい業務の門戸が開かれる可能性もあり、これについてはチャンスが開けていると思います。