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雇用契約で働く会社員であれば、源泉徴収・年末調整によって給与から税金が天引きされます。会社がすべての手続きを代行してくれるため、負担の大きさにガッカリしてしまう方は多くても、税金の計算方法や種類、仕組みを詳しく知る方は少ないのではないでしょうか?しかし、業務委託契約で働くフリーランスエンジニアの場合はそうもいきません。支払うべき税金をキチンと計算して納税するのは、業務委託で働くエンジニア個人の義務だからです。

そこで本記事では、業務委託で働くフリーランスエンジニアの方、業務委託で副業をしている会社員エンジニアの方に向け、税金の支払いが必要になる基準、支払うべき税金の種類や計算方法、考えておくべき節税対策など、ITエンジニアが知っておくべき税金の基本を紹介していきます。

業務委託契約とは?

業務委託とは、自社内のリソースで賄えない業務を、自社以外の企業や個人にアウトソーシング=外部委託することです。外部の企業・個人に任せた方が効率がいい場合にも活用される業務委託は、委託側・受託側が雇用契約を結ばず、対等の関係性で業務を遂行するのが特徴です。契約形態の一種とみなされることが多いようですが、法律的には「業務委託契約」という言葉は存在せず「請負契約」「委任契約・準委任契約」の総称を意味する言葉として使われています。

請負契約と委任・準委任契約

業務を委託された受託者が、契約の内容に基づいた成果物を完成させ、納品完了させることによって報酬を受け取る契約が「請負契約」です。ITエンジニアの例でいえば、クライアントの要望に応じたプログラムを受託開発するパターンが当てはまるでしょう。事前に要件・納期などを定め、受託者は成果物に対する責任を負う必要があるのが特徴です。

これに対する「委任・準委任契約」は、契約の内容に基づいた特定の業務を、受託者が遂行することによって報酬を受け取る契約です。勤務地・勤務時間・契約期間などを定めて働くのが一般的であり、ITエンジニアの例でいえば、開発案件に客先常駐で参画するパターンが当てはまるでしょう。請負契約と異なり、仕事の完了に責任を負わないのが特徴です。また、委任契約は弁護士などの法律行為のみに適用されるため、それ以外の契約はすべて「準委任契約」になります。

業務委託の報酬にかかる税金とは?

雇用契約を結ぶ会社員が労働の対価に受け取るのは「給与」ですが、業務委託で受け取る対価は「報酬」です。どちらでも税金を徴収されるのは同じですが、業務委託の報酬には給与とは異なった税金が課される場合もあり、同じ税金でも控除額や計算方法が異なる場合もあります。まずは、業務委託の報酬に課せられる可能性がある、関連税金の種類を紹介していきましょう。

所得税

給与によって得た「給与所得」、報酬によって得た「事業所得」どちらにも等しく課せられる税金が「所得税」です。ご存知のように、課税対象になる所得は「全収入から経費・各種控除額を差し引いた金額」ですが、控除できる金額は所得の種類や状況によって大きく異なります。また、会社が源泉徴収や年末調整を代行してくれる会社員と違い、業務委託で働くITエンジニアは確定申告で所得税を算出・納税する必要があります。

住民税

所得に応じて徴収される税金としては、居住する地方自治体の地方税である「住民税」もあります。税率は各市区町村の規程によって異なりますが、会社員であれば毎月の給与から住民税が天引きされるため、自身で計算する必要はありません。業務委託で働くITエンジニアの場合は、確定申告後に行政機関から納付通知書が郵送されてくるため、わざわざ計算する必要はありませんが、税金の納付は自身で行う必要があります。

個人事業税

給与所得者と異なり、個人事業を営む事業所得者のみに課せられる税金が、地方税の一種である「個人事業税」です。ただし、業務委託で働くITエンジニアすべてが個人事業税の対象になるわけではなく、客先常駐などの準委託契約で得た報酬は対象外とされるのが一般的です。一方、請負契約は個人事業税の対象となる「請負業」とみなされるケースがあります。住民税と同様、確定申告後に納付通知書が郵送されてくるため、対象とされた場合は税金を納付しなければなりません。

消費税

年間課税売上高が1,000万円を超える個人事業主は、開業3年目以降に消費税の納税義務が発生する可能性があります。これも給与所得者には生じない税金ではありますが、個人事業主であっても年間の課税売上高が1,000万円を超えない限りは納税義務は生じません。消費税の納税義務のある課税事業者となった場合は、確定申告時に、通常の計算方法を採用した「本則課税」もしくは、みなし仕入率を適用できる「簡易課税」のどちらかで納税額を算出することになります。

確定申告の必要がないケースとは?

ここまでで解説してきたように、業務委託で働くITエンジニアが各種税金を算出して納税の義務を果たすためには、確定申告が大前提になるのがわかります。確定申告とは、1年間で得た収入から、課税所得とそれにかかる税金を算出して確定・納税するため手続きであり、会社が代行してくれる給与所得者以外、課税所得のあるすべての方が対象になります。ただし、以下のケースにおいては確定申告する必要がありません。

・年間所得が48万円以下の方
・副業で得た年間所得が20万円以下の給与所得者

課税所得が「全収入 - 経費 - 各種控除額」であることは解説しましたが、2020年から収入のあるすべての方に適用される基礎控除が「48万円」になりました。つまり「全収入 - 経費」である年間所得が48万円以内であれば課税所得は「0」になるため、個人事業税・消費税はもちろん、所得税も支払う必要はありません。また、副業で開発業務を受託している会社員エンジニアの報酬は雑収入に分類されるため、年間所得が20万円以下であれば追加の税金を支払う必要がありません。

確定申告と源泉徴収の関係性

ただし、業務委託で得た課税所得が「0」のITエンジニアでも、確定申告をした方がいい場合もあります。それは、確定申告が課税所得とそれにかかる税金を確定させ「支払済の税金との過不足を調整する」ものだからです。この支払済の税金こそが「源泉徴収」であり、確定申告することによって、支払った源泉徴収分の税金を取り戻すことも可能です。

ITエンジニアは源泉徴収の対象外?

源泉徴収とは、給与所得者から安定的かつ確実に所得税を徴収することを目的に、国が事業者に課している制度ですが、そもそも業務委託の報酬にも適用されるものなのでしょうか?業務委託の報酬名目は「原稿料」「デザイン料」「顧問料」「広告宣伝費」などがありますが、その多くの場合で源泉徴収が義務付けられており、100万円までの報酬に関しては10.21%、100万円を超えた分に関しては20.42%の税金が差し引かれることがあります。

一方、システム開発における要件定義、基本・詳細設計、ディレクション、プログラミング・コーディング、テストなど、ITエンジニアが携わる業務のほとんどは、本来、源泉徴収の対象外です。ただし、Webサイト制作に伴うデザイン料などは源泉徴収の対象となるため、慣例的に業務委託は一括して源泉徴収するという企業が多いのも事実です。重要なことは、確定申告で税金の計算を間違わないように、源泉徴収されている税額をしっかりと把握しておくことです。

税金はどのように計算される?

事前に源泉徴収で所得税が差し引かれていても、業務委託の報酬は会社員のように安定していないのも事実です。年間収入によっては追加で所得税を支払う場合もあり、確定申告後には住民税も支払わなければなりません。使えるお金を把握して管理していくためにも、各種税金がどのように計算されるのかを知っておくのが肝心です。以下からは、業務委託で働くITエンジニアに関連する重要な税金である所得税、住民税の計算方法を紹介していきましょう。

所得税の計算方法

年間の課税所得にかかる税金が所得税ですが、日本では所得額に応じて税率が高くなる累進課税が採用されており、給与所得者・事業所得者ともに税率は同一です。具体的には、課税所得195万円以下では税率が5%であるのに対し、4,000万円以上の最高税率は45%であり、課税所得に応じた税額控除も設けられています。計算式は以下の通りです。

①課税所得 = 収入 - 必要経費 - (青色申告特別控除) - (保険などの所得控除) - 基礎控除
②所得税 = 課税所得 × 所得税率 - 税額控除

たとえば、収入が600万円、必要経費が100万円であれば、課税所得は600 - 100 - 48 = 452万円となります。課税所得452万円の所得税率は20%、税額控除は42万7,500円となるため、所得税は452万 × 20% - 42万7,500 = 47万6,500円です。青色申告承認申請書を提出していれば、最大65万円の控除が得られるため、同じ税率を適用しても課税所得、所得税はそれぞれ387万円、34万6,500円に減らせます。

住民税の計算方法

業務委託で働くITエンジニアの場合、課税所得に応じた税金である「所得割」と、一律の税金である「均等割」を合算した金額が住民税として課されます。均等割は市区町村民税の3,500円、都道府県民税の1,500円を合計した5,000円が標準税額ですが、所得割は市区町村民税の6%、都道府県民税の4%を合計した標準税率10%を、課税所得にかけて算出します。計算式は以下の通りです。

①所得割 = 課税所得 × 住民税率 - 税額控除
②住民税 = 所得割 + 均等割

税率や税額控除は地域によって異なるため、標準税率を適用して税額控除を除外したうえで、上述の例から住民税を計算してみましょう。住民税は452万 × 10% + 5,000 = 45万7,000円となり、青色申告していれば39万2,000円に減らせます。もちろん、保険・配偶者を含めた各種控除が適用できるため、実際の住民税はもっと安くできるでしょう。

業務委託で働く場合の税金対策

ここまでの解説でもおわかりのように、業務委託で働くITエンジニアが節税するためのポイントは、税金の対象となる「課税所得」を減らすことです。ムリのある税金対策はあらゆる面で悪影響をおよぼす可能性がありますが、使える制度をフル活用しながら適切に節税していくべきです。

青色申告制度を活用する

業務委託をメインにする個人事業主エンジニアであれば、最大65万円の特別控除が得られる青色申告は必ず活用したい制度です。所得税・住民税の計算方法でも紹介したように、特別控除が得られれば、最終的に支払う税額が大きく異なってくるからです。複式簿記での記帳を含めて手続きが面倒というデメリットがありますが、それを補ってあまりある節税効果が得られます。

経費を適切に計上する

必要経費として計上できる額が大きければ課税所得を減らせますが、給与所得控除と異なり、業務委託の経費は「実際に出て行く金額」であることを忘れてはなりません。キャッシュフローも念頭に置きながら、適切な判断のもとで必要経費を計上する必要があるでしょう。適切な経費計上は、業務委託で副業する会社員エンジニアにも有効です。

まとめ

所得税をはじめとする税制は、複雑かつ頻繁に改正されるのが特徴であり、これが正解という税金対策は事業者によって異なります。赤字決算などのムリな節税対策をすれば社会的信用を得るのが難しく、融資やローンの審査にも悪影響をおよぼす可能性もあります。各種税金の仕組み、計算方法を把握し、国民の義務を果たしながらも適切な節税対策を講じていく姿勢が重要です。