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依頼したい業務の明細・費用・条件が記載されている「見積書」は、営業活動の中でも非常に重要な意味合いを持つ帳票のひとつです。事前のヒアリング、何度もの打ち合わせを重ねてせっかく見積書の提出までこぎ着けても、内容がいい加減なものであれば案件の獲得につながらないからです。それはBtoB取引に限ったことではなく、フリーランスエンジニアが対企業で営業活動をする場合でも同じです。

とはいえ、会社員としてスキルを磨いてきたエンジニアの方であれば、見積書を見たことはあっても作成したことがない、というケースも少なくないでしょう。しかし、フリーランスとして独立すれば、見積書の作成を含めた営業活動は自分自身で行わなければなりません。そんなフリーランスエンジニアの方に向け、本記事では、案件獲得に有効な見積書を作成するためのポイントを解説していきます。

フリーランスの営業活動に欠かせない見積書

フリーランスエンジニアが請負・委任を含む業務委託を受託する際には、双方が合意した内容の記載された契約書が作成されます。当然、発注者が支払うべき報酬額も記載されますが、その金額こそが見積書の金額そのものです。つまり、見積書の内容・金額が確定しない限り、業務委託契約は締結できないことを意味します。エージェントなどに条件提示を含む案件紹介を受けていない限り、フリーランスが営業活動するうえで欠かせないのが見積書なのです。もちろん、見積書には条件・金額提示以外の役割もあります。

細かな認識の違いを擦り合せる

依頼内容をしっかりとヒアリングし、クライアントのニーズを汲み取ったうえで作成されるのが見積書ですが、それがそのまま最終見積として認められることは多くありません。金額面も含め、何度かのやり取り・修正を経ていくのも見積書の特徴であり、その過程でクライアントとの細かな認識の違いを擦り合せて修正していくという役割も担っているのです。特にフリーランスエンジニアの場合は、丁寧に認識の違いを取り除くことで、クライアントの信頼も得やすくなります。

発注を後押しする材料になる

業務に関する認識の違い・疑問点などがクリアできれば、クライアント側も発注しやすくなります。見積提出の初期段階から、クライアントのニーズを汲み取ったしっかりした見積書を作成できれば、修正回数を減らせるだけでなく発注を後押しする材料としても有効です。そのためには、見積書を見ても業務の内容がわからない、疑問点が残るなどの要因を残さないように作成するべきでしょう。間違っても「開発一式」などという、クライアントの不安を招くような見積書を作るべきではありません。

契約内容を確定させる証拠になる

口頭であっても成立する商取引の内容を、契約書という書面で作成するのは、万一のトラブルが発生した際に証拠として提示できるようにするためであり、見積書を書面で作成するのにもそれと同じ意味があります。契約書には報酬や支払に関する項目は記載されますが、具体的な業務内容や明細は記載されません。見積書として業務の明細・費用・条件を明確にしておくことで、業務内容に関するトラブルも防げます。労働関連法の保護を受けられないフリーランスエンジニアにとって、見積書は自分自身を守るための帳票でもあるのです。

見積書の金額はどのように決める?

フリーランスとして独立したばかり、あるいは独立を検討しているエンジニアの方にとっては、見積書に記載する金額をどのような基準で決めたらいいのか、どのように記載したらいいのか、迷ってしまうこともあるでしょう。案件の内容や請負う業務、職種によっても異なりますが、以下からは見積書を作成する際の基本的な考え方を紹介していきます。

作業項目ごとに分類する

まずは業務完了、成果物の納品までの全体像を描き、必要な作業を洗い出して項目ごとに分類するといいでしょう。たとえば、システム開発案件をまるごと請負うのであれば「要件定義」「基本設計」「詳細設計」「コーディング」「デバック」などが挙げられます。あわせてインフラ構築や保守が必要であれば、その分の項目も含め考えられる作業項目を見積書に盛り込んでおくのが重要です。単純作業であっても、見積書を見ただけでどんな仕事をしているのか分かる程度には分類しておくべきです。

各項目の工数を考える

作業項目を分類したら、各項目の工数を考えながら単価を設定していきます。要件定義なら3万円といった形で作業自体に定価を設ける方法もありますが、案件ごとに内容が大きく異なる開発業務の場合は時間単価で考えた方が得策です。たとえば、月収60万円のスキルがあると考えるなら、時間単価は600,000÷20÷8=3,750円と計算できます。工数を時間に置き換えて単価を掛ければ、作業項目ごとの金額を計算できるでしょう。フリーランスエンジニアとしての市場価値が判断しにくいのであれば、エージェントを活用しながら相場を探るという方法もあります。

見積書作成時に盛り込むべき項目

見積書の重要性を理解し、作業単価が設定できれば、実際の見積書作成に取りかかります。クライアントの発注を後押しするためには、だれが見てもわかるように見積書を作成する必要がありますが、そのために盛り込むべき項目というものが存在します。一般的には、作業項目などの明細部を中央に据えたうえで以下の項目を配置します。クライアントによって追加項目を求められるケースもあるため、事前にヒアリングしておくといいでしょう。

・帳票タイトル(見積書)

・宛名(会社名には御中、担当者名には様)

・発行日

・有効期限

・通し番号(修正版を管理しやすいように枝番を付ける)

・見積金額(消費税込みの総額)

・見積者の情報(名前・電話番号・住所・屋号など)

・振込先口座(金融機関名・支店名・口座種類・口座番号・名前)

明細部には以下の項目を設け、すべての小計・消費税額・税構想額も記載するようにします。振込手数料をどちらが負担するのかも明記しておくと親切です。

・品目(作業項目ごとにわかりやすく)

・数量(作業時間数など)

・単価(時間あたりの作業単価など)

・金額(数量×単価)

見積書はどんなツールで作成する?

クライアントがわかりやすいよう、一般的に盛り込むべき項目というのが存在する一方、見積書には決められたフォーマットというものは存在しません。見やすくわかりやすければ、どんなツールで作成してもかまいませんが、フォーマットをゼロから作るのも時間がかかります。以下からは、これまで見積書を作成したことのないフリーランスエンジニアでも、簡単に活用できるツールをご紹介しましょう。

テンプレートを活用する

もっとも簡単で費用がかからないのが、Webで公開されている見積書テンプレートの活用です。さまざまなWebサイトでWord・Excel形式などの見積書テンプレートが公開されているため、気に入ったデザイン・フォーマットのものを自由に選べ、簡単に作成できるのがメリットです。自身の見積書フォーマットとしてカスタマイズすれば、納品書・請求書としても流用可能です。

一方、Wordは文書作成アプリであり、Excelは表計算ソフトです。簡単に見積書を含む帳票作成ができる反面、作成した見積書を整理・管理し、必要に応じて絞り込み検索するといった用途には必ずしも向いているとはいえません。見積書管理番号の付け方に一定のルールを設ける、フォルダ管理のルールを徹底するなどの工夫も必要です。

クラウドサービスを活用する

近年では見積書を簡単に作成できるクラウドサービスが多数登場しており、こうした見積書作成サービスを活用するのも方法のひとつです。見積書・納品書・請求書を簡単に作成できるだけでなく、効率的に管理できるのもクラウドならではの特徴であり、各種確定申告ソフトウェアと連携できるサービスもあります。月額利用料金を支払う必要はありますが、フリーランスエンジニアが見積書を作成する最も合理的な方法だといえるかもしれません。

有料サービスを利用するなら、データベースソフトウェアを活用して、自分自身の管理システムを構築するという方法も挙げられます。見積書・納品書・請求書を簡単に作成できるだけでなく、CRM・在庫管理・備品管理機能を連動させた業務システムを構築できます。

見積書に関する知っておきたい注意点

ここまでで、営業活動における見積書の重要性とともに、フリーランスエンジニアが案件を獲得するための見積書作成ポイントを解説してきました。しかし、これまで営業活動の経験がない方であれば、見積書に関する疑問はまだまだあるかもしれません。そこで以下からは、営業活動ビギナーのフリーランスエンジニアが感じるであろう、見積書に関する疑問・注意点を挙げて一つひとつ解説していきます。

印鑑・角印は必要?

見積書に角印などの社判が押印されているのを目にしたことのある方も多いかもしれませんが、BtoB取引でないフリーランスの方であれば、印鑑・角印の押印は必須ではありません。ただし、印鑑・角印が押印されていれば取引先に安心感を与えられるため、個人事業主の届出時に屋号も登録し、角印を用意しておくのがベターです。

源泉徴収の記載は必要?

個人事業主として活動するフリーランスエンジニアの方は、会社員とは違って源泉徴収と無縁だと思われるかもしれませんが、業務内容や職種によってはクライアント側が源泉徴収するケースもあります。しかし、その金額をあえて見積書に記載する必要はありません。

ただし、報酬の入金額が違うなどで慌てないように、請負った業務が源泉徴収の対象なのか?対象であればどのくらいの金額が差し引かれるのかを把握しておくといいでしょう。たとえば、要件定義や設計、コーディングなど、プログラマー・エンジニアの業務に関しては源泉徴収の対象外ですが、エンジニアがコラムを書いた場合などの原稿料、講演料、ロゴ制作などのデザイン料は源泉徴収の対象です。税率は復興特別所得税を含み、10.21%です。

割引・値引き交渉には応じるべき?

フリーランスの悩みのひとつに、クライアントからの割引・値引き交渉にどう対応するかが挙げられるのではないでしょうか?結論からいうと、値引き交渉には安易に応じるべきではありません。次回以降の案件も含め、値引きした料金があなたの相場になってしまいかねないからです。どうしても割引・値引きが必要なようであれば、見積書の明細に「特別値引」などの項目を追加して対応するといいでしょう。

見積書を郵送するときの注意点は?

見積書を郵送して欲しい、あるいはFAXしてほしいといった要望は少なくありません。どちらの場合も、見積書とは別に、ヘッダとなる「添え状」を添付し、郵送の場合は封筒表面に「見積書在中」と記載するのがマナーです。見積書をFAXする場合は、送信完了した旨を電話・メールなどで知らせておくと親切です。

見積書をメールで送るときの注意点は?

メールを中心に見積書をやり取りするケースも少なくありません。不備のないように見積書を作成するのはもちろんですが、それ以外にも以下の要素に気を付けておくべきです。

・見積書は上書きできないファイル形式になっているか

・見積書のほかに添付すべき資料・ファイルを忘れてないか

・会社名・担当者などの宛名は正確か

・わかりやすく簡潔な件名・本文を心がける

・件名に「至急」「要返信」などを加えない

まとめ

営業活動と縁の薄かったエンジニアの方であれば、見積書の作成に苦手意識を感じてしまうかもしれません。しかし、立場を逆転させて考えられさえすれば、見積書の作成は難しいものではありません。数回のやり取りを重ねるうちにすぐにコツも飲み込めます。スムーズに案件を獲得するためにも、積極的に見積書を活用していきましょう。