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IT化を見据えたシステム開発需要が膨らむ一方、エンジニアの人材不足は深刻化しており、それに比例するようにフリーランス向けのシステム開発案件も高額化する傾向があります。事実、副業も含むフリーランスエンジニアの25%は、年収500万円を超えているといわれており、ほかの職種と比べても飛び抜けた高収入が期待できます。会社員で知識・スキルを積んできたエンジニアの方なら、フリーランスとしての独立を検討しているかもしれません。

しかし、フリーランスとして独立すれば、会社員時代とは異なった意識で「お金」「仕事」に取り組む必要があります。特にお金の管理をしっかりしなければ、せっかく働いたのになにも残らなかったということにもなりかねません。そこで本記事では、フリーランスエンジニアとして独立する方が知っておきたい、お金の管理・お金の考え方について紹介していきます。

フリーランスと会社員の違い

組織・企業と雇用契約を結ぶ会社員の最大のメリットは、安心であり安定です。毎月決まった日に安定した給与が支払われ、源泉徴収の計算や年末調整も会社任せです。2階建てといわれる厚生年金や健康保険も会社が半額負担してくれ、加入手続きも代行してくれます。労災や労働基準法で守られるのはもちろん、退職金もあわせた老後の安心もある程度確保できるでしょう。

一方のフリーランスエンジニアは、特定の組織に属さない働き方です。実力次第で高収入が狙える、自由な働き方ができるメリットはありますが、常に安定した収入が確保できるとは限りません。保険・年金も自己負担になり、確定申告や税金の支払いも自身で行う必要があります。もちろん労働基準法の対象外となるため、万一の事故があってもなんの補償もありません。会社員とフリーランス、どちらがメリットが大きいのかは一概にいえませんが、フリーランスになるということは「すべてを自分で引き受ける」ことと同じなのです。

なぜお金の管理が重要なのか?

すべてを自分で引き受けるフリーランスが、特に重要視しなければならないのが「お金の管理」です。独立して早々に多数の仕事が舞い込めば、口座には多額のお金が振込まれますが、すべてのお金を自由には使えないことを覚えておかなければなりません。保険・税金が天引きされる会社員の給与と違い、フリーランスは売上金から保険・税金を支払わなければならないからです。もちろん、状況によっては順調だった仕事が途切れることもあるでしょう。口座の残高しか確認していないようであれば、いざというときに税金すら支払えなくなってしまいます。こうした事態に陥らないためにも、収支の現状をしっかりと把握するお金の管理が重要なのです。

フリーランスはお金の管理が苦手?

しかし、フリーランスの多くは、お金の管理に苦手意識を持っているようです。調査によると、どちらかというと苦手を含め、会計や経理業務に苦手意識を持っていると答えたフリーランスは、実に65%以上にも及んでいるのです。具体的にどのような業務でストレスを感じるかという質問には、53%が確定申告、次いで35%で収支の記帳となっています。では会計・経理の知識を身につける努力をしているかというと、60%以上がなにもしていないと答えています。案件の獲得を含めた本業に集中したいという意識が見えますが、すべてを自分で引き受けるのがフリーランスだということを忘れてはならないでしょう。

フリーランスが知っておきたいお金の管理

それでは、フリーランスがキチンとお金の管理をするためには、なにを実行すべきなのでしょうか?案件の獲得にバラつきがある、支払サイトによって入金時期にバラつきがあるのがフリーランスの特徴であり、これが収入の不安定につながる要因です。収入と経費・税金・保険を含めた支出を記録し、節税も念頭に置きながら、現状の利益がどのくらいあるのかをしっかりと把握するのが重要です。具体的に解説していきます。

個人事業主として開業する

フリーランスが「働き方のひとつ」であるなら、個人事業主は「税制上の区分」です。フリーランスとして活動するのに届出は必須ではありませんが、税金に対する意識を持つためにも、個人事業主として開業したうえで、フリーランスという働き方を選択するべきでしょう。個人事業主として開業するのは簡単です。国税庁のWebサイトから「開業届」をダウンロードして記入し、控えとともに所轄税務署に提出するだけです。申請にかかる費用なども一切ありません。

青色申告での確定申告に備える

個人事業主として開業する最大のメリットは、事業所得から最大65万円控除される青色申告で確定申告できることです。開業届を提出していないフリーランスは必然的に白色申告となり、控除額が10万円にとどまるうえ、申告手続きの手間は青色申告と変わりません。開業届と同時に、青色申告承認申請書を提出し、青色申告事業者として登録しておくべきです。

確定申告に慣れていないエンジニアの方は、申告手続きに不安を覚えるかもしれませんが、会計の入門書とクラウド会計ソフトを用意して確定申告に備えましょう。特に会計ソフトの導入は重要です。2020年分の確定申告から、e-Taxもしくは電子帳簿保存が65万円控除の条件になっているからです。どちらにも対応できないのであれば、控除額が55万円に減額されてしまいます。

記帳・仕訳の習慣をつける

会計ソフトを導入したら、収入・支出があるたびにキチンと記帳し、経費を含めて仕訳する習慣をつけておくべきです。もちろん、領収書・請求書の整理・管理も欠かせません。面倒だからと後回しにしていると処理しなければならない帳票類がたまってしまい、記帳・仕訳作業がより苦痛なものになってしまいます。週に1回記帳の日を決めておくなど、ルーティンとして定着できるように工夫してみるといいでしょう。

どこからどこまでが経費になるのかを把握しておくのも重要です。基本的には「収入を得るための支出」は、すべて経費になると考えられます。賃貸の自宅を作業場にしているのであれば、専有面積に応じた家賃控除も可能であり、電気・通信代なども控除の対象になります。

事業用の銀行口座・クレジットカードを用意する

通信費やプロバイダ料金など、近年では各種支払にクレジットカードが必須になるケースが増えており、フリーランスの仕訳作業を難しくする要因にもなっています。家計・プライベートでの収支と分離して管理できるよう、事業用の銀行口座・クレジットカードを作っておくと便利です。フリーランスになるとクレジットカードの審査が通りにくくなる一面もありますが、個人事業主向けのサービスも登場しています。また、開業届を提出する際に登録しておけば、屋号名で事業用銀行口座を開設するのも可能です。振込先が屋号名になっていれば、クライアントの信頼が得やすくなるかもしれません。

フリーランスが考えておきたいお金のこと

お金の管理がフリーランスエンジニアにとって非常に重要なのは、不安定になりがちな収支を把握し、全体を見渡して利益のバランスを取っていくためです。そのためには、お金に対する考え方も会社員時代とは変えていく必要があるでしょう。独立前はもちろん、独立してからも、フリーランスは自身の生活・キャリア形成を含めたすべてを自分で引き受けなければなりません。そうした個々の決断に常に付いて回るのがお金です。

フリーランスの独立は計画的に

会社員時代にクライアントと太いパイプを築いてきたエンジニアの方であれば、フリーランスに転身しても仕事に困ることはないかもしれません。しかし、自社内での業務に集中していたエンジニアに、独立直後から多数の仕事が舞い込むということは多くありません。逆に、独立当初は順調に獲得できていた案件が、急に途絶えてしまうこともあります。こうした事態に備え、各種手続きを済ませるうえでも、年収の半年分〜1年分程度の貯蓄をしておくなど、独立を計画的に実行する必要があるでしょう。

独立の準備をするために、退職後の失業保険をあてにしている方もいるかもしれませんが、失業保険の対象者は「就職活動している人」です。独立準備をしながら失業手当をもらうと不正受給になってしまいます。また、前年度の収入をもとに、住民税の請求があることも忘れてはなりません。

スキルアップの自己投資は惜しまない

ITに関連する技術は日進月歩で進化しています。余計な支出は抑えるべきですが、フリーランスとしての市場価値を高く保つため、スキルアップに向けた自己投資は惜しんではいけません。技術書・参考書などの購入、スクール・セミナーへの参加など、新たな知識・スキルを積極的に習得していけば、時代の流れに取り残されることもありません。スキルアップに向けた支出に関しては、経費としても計上できます。

会社員と異なる保険・年金・退職金を考えておく

フリーランスとして独立すれば、社会保険を国民健康保険に、厚生年金を国民年金に切替える必要があります。会社員時代よりも年金受給額が低くなってしまうのはもちろん、フリーランスには退職金もなければ休業補償もありません。独立後はいかに案件を獲得するかに集中しがちですが、将来的な補償も考えておく必要があるでしょう。小規模企業共済を利用して退職金を積み立てる、失業保険・労災を補うために一般のフリーランス保険に加入するなど、できる限り早い段階で対策を講じておくのがベターです。

無理な節税対策はしない

青色申告はフリーランスにとって非常に「お得な」税制度ではありますが、会社員にも経費相当の控除が認められる「給与所得控除」があります。給与所得控除額は年収500万円であれば144万円になるため、同等の事業所得のあるフリーランスならば、できるだけ経費計上して節税対策したいと考えるでしょう。しかし、確定申告前に、駆け込みで設備投資するなどの無理な節税対策はするべきではありません。その場限りの節税対策で税金の支払額を抑えられても、経費として支払う金額がそれを上回ってしまうからです。もちろん、必要な投資はすべきですが、無駄な投資は最終的に収支を圧迫し、使えるお金が残らないことにつながってしまいます。

インボイス制度の対策を考えておく

8割以上におよぶフリーランスが「知らない」と答えている「インボイス制度」が、2023年10月1日から施行されます。フリーランスの働き方・お金に重要な影響を与えかねないインボイス制度を理解し、今から対策を考えておく必要があるでしょう。インボイス制度とは、課税事業者のみが法的効力のあるインボイス(請求書)を発行できる制度であり、これによって、非課税事業者のインボイスに記載された消費税は控除できなくなります。インボイス制度が施行されれば、委託側の法人は、非課税事業者であることがほとんどのフリーランスに「仕事の依頼をしにくくなる」ことが予想されます。

インボイス制度への対策としてできることは「消費税を請求しない」が考えられますが、取引先が法人であれば、受託先によって異なる手続きが存在するのを良しとしないケースも考えられます。現実的には、事業収入1,000万円以下のフリーランスでも「課税事業者として登録する」しかないかもしれません。消費税の納税義務が発生しますが、仕事の幅を狭めないためにも検討しておきたい要素です。

まとめ

フリーランスエンジニアとして独立するということは、お金に関するさまざまな手続き・支払いをすべて自分で処理しなければならないことを意味します。苦手意識を持ったまま、お金の管理を疎かにしていては、フリーランスとして活動するメリットを失ってしまうでしょう。お金に関する考え方を改め、将来的なことも見据えながら、しっかりと管理していくのが重要です。