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フリーランスにはメリットと引き換えのリスクがある

実力次第で収入を増やせる、ライフスタイルにあわせた働き方ができるなど、フリーランスエンジニアとしての活動には、多くのメリットが得られる魅力があります。ただし、メリットと表裏一体だといえるリスクがあるのも事実です。フリーランスとしてのメリットを享受するには、安定・安心という会社員としてのメリットを捨て、それをリスクとして自分自身が負う必要があるのです。

なかでも、万一の場合の安心=補償がないというのは、フリーランスエンジニアにとっての大きなリスクです。しかし、リスクをデメリットとして捉えているだけでは、いつまでも成長に向けた前進ができません。起こり得るリスクをしっかりと把握し、対策を講じていくことが重要であり、その方法のひとつとして知っておきたいのが「共済制度」です。

それでは、フリーランスエンジニアが加入できる共済制度にはどのようなものがあるのか?共済加入でどのようなメリットが得られるのか?加入時の注意点を含め、フリーランスが知っておきたい共済精度の詳細を紹介していきます。

留意しておくべきフリーランスのリスクとは?

フリーランスエンジニアとして独立すれば、個人事業主としての登録、社会保険・年金切替えなどの関連手続きが必要です。これまで会社が代行してくれていたことも自分で処理する必要があり、日々の帳簿作成も欠かせません。ただし、手続き関連は頻繁ではなく、優秀なクラウドツールを活用すれば事務作業にかかる手間も軽減できます。スキルと営業力を磨けば、安定した収入が得られないリスクも軽減できるでしょう。

しかし、安心という面でのリスクは、対策を講じない限りリスクとして残ってしまいます。それでは、フリーランスが具体的に対策を講じるべきリスクとはなんでしょうか?

退職金がない

会社員と異なり、フリーランスエンジニアには退職金というものがありません。追加の補償が得られる厚生年金と異なり、国民年金では基本的な補償しか得られません。つまり、フリーランスエンジニアはリタイア後の生活保障に不安を抱えがちなのです。もちろん、フリーランスであれば高収入が狙えるのは事実ですが、会社負担がなくなる分、保険関連の支出が増える可能性があることにも留意が必要です。

取引先の影響を受けやすい

組織に属さない働き方であるフリーランスエンジニアは、必然的に企業対個人の取引になりがちであり、企業同士の取引となる会社員と比べ、取引先の影響を受けやすい面があります。これは安定した案件獲得が難しいということでもありますが、なによりも資金回収、つまり貸し倒れのリスクを個人で負わなければならないことを意味します。

退職金代わりに活用したい小規模企業共済

フリーランスエンジニアが抱えがちな特有のリスク、2つを紹介してきましたが、そのうちのひとつ、退職金がないというリスクを軽減するのに有効なのが「小規模企業共済」です。小規模企業共済とは、個人事業主・フリーランスを含む小規模事業者が、事業を廃業したとき、あるいは廃業によって経営者から退いたときに、積み立てた掛金に応じて共済金を受け取れる制度であり、独立行政法人である中小企業基盤整備機構が運営しています。加入人数・在籍人数ともに増加傾向にある、フリーランスのための退職金制度といえるでしょう。

小規模企業共済の加入条件

小規模企業共済への加入は、開業届を提出している個人事業主であることが前提条件です。また、エンジニアの場合は宿泊・娯楽業ではないサービス業に分類されるため、従業員5名以下である必要もあります。

個人事業主もしくは会社役員が加入できる共済でもあるため、専業従事者として働く配偶者・家族は加入条件を満たせず、アパート・マンション経営する給与所得者、非営利法人の役員などにも加入資格はありません。

小規模企業共済の加入手続き方法

小規模企業共済への加入手続きは、申込書・必要書類の入手、記入、窓口への提出、書類の受取りという手順を踏む必要があります。フリーランスの場合「確定申告書の控え」または、開業したばかりであれば「開業届の控え」が必要であり、契約申込書は窓口で受け取る、もしくはインターネットでの資料請求で受け取れます。

申込窓口は、商工会議所・青色申告会などの「委託団体」もしくは、都市・地方銀行などの「代理店」に設けられています。契約申込書には振替口座を記入する欄があり、口座のある金融機関でも手続きしなければなりません。振替口座を持つ金融機関が窓口業務を行っているのであれば、手続きの手間を減らせます。

小規模企業共済の掛金

小規模企業共済の掛金は、1,000円から7万円まで、500円刻みで加入者が自由に設定できます。支払方法も月払い、半年払い、年払いから選べ、初回申込時には現金納付が必要ですが、以降は口座振替になります。初回に設定した掛金は自由に増額可能ですが、注意しておきたいのは「増額した掛金は簡単に減額できない」ことです。減額が認められるのは病気やケガ、経営が著しく悪化した場合のみのため、掛金の設定には注意が必要です。災害・入院・収入がないなど、特別なケースでは8か月、もしくは12か月の納付停止が認められています。

小規模企業共済に加入するメリット

フリーランスの退職金制度ともいえる小規模企業共済は、事業を廃業した時点で任意解約すると、加入期間に応じた掛金が戻ってきます。20年(240か月)加入していれば、支払った掛金が100%戻ってくるのに加え、加入期間がより長期になれば最大で掛金の120%が支払われます。小規模企業共済には、それ以外にもいくつかの加入メリットがあります。簡単に解説していきましょう。

掛金は全額所得控除の対象

小規模企業共済の掛金は、全額所得控除の対象となるため、フリーランスエンジニアにとっては節税対策にもなります。中小企業基盤整備機構が公表している試算によれば、課税所得が200万円のフリーランスの場合、月額1万円の掛金であれば2万700円、掛金が5万円であれば9万3,200円の節税効果が得られます。課税所得800万円のフリーランスであれば、それぞれ4万100円、20万900円の節税効果になり、年収が多ければ得られる節税効果も高くなります。

共済金の受取り時に節税効果がある

事業廃業後に受け取る共済金は、一般的な退職金同様、退職所得として扱われます。退職所得にも基礎控除があり、加入期間に応じた税控除が適用されるため、長期加入によって大きな節税効果が得られます。たとえば、月額掛金3万円で20年加入していれば、受け取れる共済金は満額の720万円です。一方、退職所得控除は20年で800万円となっているため、720万円の共済金は非課税で全額受け取れます。

万一の資金貸付制度がある

小規模企業共済には、契約者を対象にした各種貸付制度が設けられており、万一の際に低金利で資金調達できる大きなメリットがあります。事業資金を迅速に調達できる「一般貸付」のほか、資金繰りに窮した場合の「緊急経営安定貸付」病気・ケガによる入院、災害時に使える「傷病災害時貸付」事業承継時、事業廃業時に必要な資金に使える「事業承継貸付」「廃業準備貸付」などがあり、個人事業主・フリーランスの事業を幅広くサポートしています。

小規模企業共済加入時に注意しておきたいポイント

フリーランスのリスクを軽減でき、節税効果・資金貸付が得られるなどのメリットもある小規模企業共済ですが、12か月未満で任意解約した場合は掛け捨てになってしまうなど、契約内容を把握していなければ損をしてしまうことがあるのも事実です。特に注意しておきたいポイントは、課税所得と共済加入期間、そして掛金の節税効果と関係性です。

課税所得・加入期間・節税効果の関係性

12か月以上の加入期間があれば、小規模企業共済を任意解約しても掛金の80%が戻ってきますが、240か月に満たなければ掛金の100%は戻ってきません。つまり第一に、長期に渡る加入期間を前提としていなければ、支払った掛金に損失が生じることになります。

掛金は全額所得控除できるため、節税効果との関係性で共済金損失分を相殺できるという考え方もありますが、同じ掛金でも課税所得によって得られる節税効果は異なります。たとえば上述の例では、課税所得200万円のフリーランスが毎月5万円の掛金を支払った場合、節税効果は9万3,200円ですが、課税所得800万円の場合は20万900円です。12か月で小規模企業共済を任意解約した場合(掛金:月5万円×12か月=60万円)、48万円(60万円*0.8)が戻ってくる反面12万円(60万円*0.2)の損失が生じます。課税所得800万円のフリーランスは節税効果を上回る一方、課税所得200万円では損失を補填できないのです。

課税所得が低く収入の安定しないフリーランスエンジニアであれば、事業を廃業して再就職というパターンも考えられます。つまり第二に、課税所得の低いフリーランスは小規模企業共済で損失を被りやすいのです。

貸し倒れリスクを軽減する経営セーフティ共済

小規模企業共済と同様、中小企業基盤整備機構が運営するもうひとつの共済が「経営セーフティ共済」です。正式名称を「中小企業倒産防止共済制度」といい、その名の通り、取引先の倒産などのあおりを受けて中小企業の連鎖倒産が起こらないよう、担保・保証料の必要なしに速やかに貸付が得られる共済です。

掛金は月額5,000円から20万円の範囲内であれば、5,000円刻みで自由に設定でき、万一の場合は取引先の倒産などで回収が困難になった額、もしくは積み立てた掛金総額の10倍に相当する額、いずれか低い方の金額の貸付が得られます。

経営セーフティ共済の加入資格

経営セーフティ共済に加入できるのは、1年以上継続して事業を行っている中小企業者・開業届を提出している個人事業主であり、業種に応じた「資本金額または出資の総額」「常時雇用する従業員数」に関する制限があります。サービス業に属するフリーランスエンジニアの場合、資本金額または出資の総額が5,000万円以下、従業員100名以下となっているため、開業届さえ提出してあれば加入資格に該当するでしょう。

経営セーフティ共済に加入するメリット

経営セーフティ共済に加入する最大のメリットは、万一の際でも担保・保証料の必要なしに速やかに貸付が得られることでしょう。もちろん、そのほかにもメリットがあります。たとえば、掛金は法人であれば損金、個人事業主であれば必要経費として計上できるため、大きな節税効果が得られます。また、加入期間が40か月以上であれば、掛金の100%が戻ってくる点もメリットです。

経営セーフティ共済加入時に注意しておきたいポイント

ただし、小規模企業共済と同様、加入期間が12か月未満の場合は掛け捨てになること、解約時の受け取る共済金は事業所得として課税対象になることに注意が必要です。貸付を受けた場合の利率自体は無利子ですが、積み立てた掛金から貸付金の1/10が控除されてしまうため、金利負担がないわけではないのも注意しておきたいポイントです。万一の場合のセーフティネットとして有効な経営セーフティ共済ですが、どちらかといえば法人向けということもできるでしょう。

まとめ

フリーランスエンジニアが抱えがちなリスクを軽減する方策として、小規模企業共済、経営セーフティ共済を紹介してきました。どちらかといえば、各種貸付制度も利用できる小規模企業共済の方がフリーランスに向いているとはいえますが、万一のリスクに備えるには民間のフリーランス保険を検討するという方法もあります。それぞれのメリット・デメリットをしっかり把握し、年収や働き方に応じた最適な対策を講じておくのが重要です。