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実力次第で大幅な収入アップが望めるフリーランスという働き方は、ITエンジニアにとって非常に魅力的です。会社員として実務経験を積んだITエンジニアであれば、個人事業主としての独立を検討しているのではないでしょうか?しかし個人事業主となれば、会社が代行してくれていた各種手続きはすべて自身で行わなければなりません。なかでも複雑でわかりにくい社会保険には、多くの個人事業主エンジニアが頭を悩ませていることでしょう。

そこで本記事では、フリーランスへの転身を検討するITエンジニアの方に向け、個人事業主が加入できる社会保険や配偶者を含む家族の扱い、従業員を雇用した場合の社会保険加入義務など、個人事業主エンジニアが知っておくべき社会保険の基本を紹介していきます。

社会保険制度とは?

社会保険制度とは、すべての国民が健康的・文化的な最低限の生活を営む権利を有するという憲法25条に則り、国から加入が義務付けられている保険制度です。最低限の生活が困難になってしまった人を助けるため、加入者が支払う保険金を財源としてプールしておく仕組みです。

社会保険制度の種類

日本における社会保険制度には、目的に応じて大きく5種類が存在します。

・公的医療保険(健康保険):医療費の負担軽減を目的にする保険
・介護保険:高齢者の介護負担軽減を目的にする保険、40歳以上が対象
・年金保険:定年退職後などの生活保障を目的にする保険
・雇用保険:失業時の生活保障を目的にする保険
・労災保険:勤務中の事故保障を目的にする保険

社会保険はこれらすべてを含んだ呼称ですが、健康・介護・年金保険を「社会保険」雇用・労災保険を「労働保険」と区別して呼称する場合もあります。

会社員の社会保険制度

大きく5種類に分類できる社会保険ですが、会社員として働いたことのある方ならおわかりのように、健康保険・年金保険にはいくつかの種類が存在し、労働形態によって加入できる保険が異なります。法人に所属する一般的な会社員の社会保険例を紹介しておきます。

・健康保険:健康保険組合(組合健保、協会けんぽ等)に加入して、介護保険料とあわせて会社と従業員で折半して支払う
・年金保険:厚生年金に加入して、保険料を会社と従業員で折半して支払う
・労災保険:会社が全額負担
・雇用保険:保険料を会社と従業員それぞれが負担して支払う

健康保険に関しては、収入が130万円以下の配偶者・子供を扶養家族にでき、1人分の保険料で家族全員の健康保険証を受け取れます。また、年金保険に関しても扶養家族の保険料は不要です。

保障の手厚い厚生年金

会社員で特徴的なのは、年金保険である「厚生年金」です。基礎年金としての国民年金とは別に、2階建て部分ともいわれる保険料を支払うことで、より手厚い老後年金を受け取れるのはもちろん、保険料の半額を会社が負担してくれます。会社によっては、3階建て部分といわれる「確定給付企業年金」「企業型確定拠出年金」などが追加されることもあり、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入する方もいます。

個人事業主が加入できる社会保険

ここまでで紹介した社会保険は、法人と雇用契約を結ぶ労働者を対象とした保険であり、個人事業主として事業を営む方は加入できません。また、労災・雇用保険は事業所に雇用される従業員が対象であるため、一部の例外を除いて個人事業主は加入できません。ただし、社会保険は国民に加入が義務付けられている制度であるため、個人事業主であってもなんらかの健康保険、年金保険に加入する必要があります。

個人事業主エンジニアは情報サービス業

個人事業主が加入できる社会保険は、業種や雇用する従業員数によって異なります。法律では、5名以上の従業員を雇用する「適用業種」の事業者であれば、法人同様、健康保険・厚生年金への加入が義務付けられていますが、指定された16の適用業種以外の「適用外業種」であれば、従業員が5名以上であっても健康保険・厚生年金への加入は「任意」です。ITエンジニアが個人事業主として独立した場合は「情報サービス業」に分類されるため、社会保険の「適用外業種」となり、仮に5名以上の従業員を雇用しても社会保険への加入は任意です。まずは、この大前提を理解しておく必要があります。

個人事業主の健康保険

それでは、フリーランスのITエンジニアとして活動する個人事業主は、どのような健康保険に加入できるのでしょうか?一般的な個人事業主であれば「国民健康保険」のほか「業種特化の健康保険組合」に加入する、あるいは「会社員時代の健康保険任意継続」「家族の扶養家族になる」という4つの選択肢がありますが、業種が限定されている健康保険組合にエンジニアは加入できないため、残り3つの方法から選ぶことになります。

・国民健康保険:個人事業主が加入するもっとも一般的な方法、収入に応じて保険料は変動
・健康保険の任意継続:会社員時代の保険を2年間延長可能、以後は国民健康保険への加入が必要
・家族の扶養家族:年収が130万円以下であれば、会社に勤める家族の扶養に入れる

いずれの場合でも、会社が半額を負担してくれる会社員と異なり、個人事業主は保険料を全額負担しなければなりません。

個人事業主の年金保険

厚生年金に加入できない個人事業主エンジニアは、年金保険として「国民年金」への加入が必須です。健康保険同様、個人事業主であれば保険料を全額負担する必要があるのに加え、2階建て部分である厚生年金がなくなるため、老齢年金の受取総額は減少します。これを補うための年金保険をいくつか紹介しておきます。

・付加保険料:月額400円を国民年金に追加して支払うことで受取額を増やせる制度
・国民年金基金:年齢に応じた掛金を支払うことで受取額を1〜3万円増やせる制度、付加保険料との併用は不可
・確定拠出年金(iDeCo):3階建て部分の保障として個人で運用する年金

個人事業主の社会保険には扶養家族の概念がない

注意しておくべきことは、家族を扶養にできた会社員時代と異なり、これらの社会保険には扶養家族の概念がないことです。つまり、個人事業主エンジニアの配偶者は、収入に応じた国民健康保険料を支払う必要があり、国民年金は家族それぞれの分の保険料を支払わなければなりません。

個人事業主の労災保険・雇用保険

従業員の保障が目的となる労災保険・雇用保険は、個人事業主本人を対象にしていないことは上述したとおりです。しかし、被雇用者でない個人事業主であっても、災害や業務上の事故から守られる必要があります。このため、特定条件を満たす個人事業主向けに、労災保険の特別加入制度が設けられています。

一般的には建設・運送事業などで利用される「一人親方等の特別加入」制度が知られていますが、情報サービス業である個人事業主エンジニアが利用できるのは「中小事業主等の特別加入」制度です。あくまでも任意ではありますが、100名以下の事業所であれば個人事業主本人はもちろん、事業主の家族従事者の加入も可能です。

個人事業主が従業員を雇用したら?

ここまでは、ITエンジニアが「一人で事業を営む」ことを前提に、個人事業主が知っておくべき社会保険制度の基本を紹介してきました。しかし、事業の展開次第では、事業主本人以外の従業員を雇用したいというケースがあるかもしれません。以下からは、ITエンジニアが「情報サービス業」であることを念頭に、従業員を雇用した場合の社会保険の取り扱いを解説していきます。

労災保険

中小事業主等の特別加入制度以外にも、個人事業主が1人でも従業員を雇用すれば、事業所として労災保険に加入しなければなりません。保険料は従業員の給与総額に対して、業種ごとに定められた保険料率をかけた金額となり、全額を事業所が負担することになります。加入対象となるのは正社員だけではなく、パート・アルバイト・日雇いなど、雇用形態を問わない従業員全員となり、手続きは労働基準監督署にて行います。

雇用保険

失業時の保障を含めた雇用保険に関しても、1人でも従業員を雇用した個人事業主は、事業所として加入しなければなりません。パート・アルバイトなどの雇用形態は問いませんが、対象となるのは以下の条件を満たしている従業員です。

・1週間の労働時間が20時間以上であること
・31日以上継続した雇用の見込みがあること

個人事業主と生計を共にする配偶者は、基本的に雇用保険には加入できませんが、事業主の指揮命令に従っている、勤務実態・賃金がほかの従業員と同様などの条件を満たせば加入可能です。

社会保険の加入義務は発生する?

それでは、従業員を雇用した個人事業主エンジニアは、健康保険・厚生年金を含む社会保険に加入する必要があるのでしょうか?結論からいうと、社会保険の適用外業種である個人事業主エンジニアは、仮に5名以上の従業員を雇用しても、社会保険への加入は任意です。この場合、雇用関係にある従業員は、労災保険・雇用保険には自動加入できますが、健康保険は国民健康保険、年金保険は国民年金に、それぞれ自身で加入することになります。健康保険・年金保険に関しては、個人事業主本人・従業員で同等の条件になると考えて間違いないでしょう。

個人事業主が社会保険に加入するには?

ただし適用外業種であっても、従業員を雇用してさえいれば、社会保険に加入するのは可能です。条件として、雇用する従業員の半数以上が加入に同意している必要がありますが、これを満たしていれば従業員数5名以下の事業所でも社会保険に加入できます。保険料は事業所・従業員で折半する形になりますが、個人事業主本人も加入でき、配偶者などを扶養家族にできるメリットもあります。将来の保障の手厚さ、保険料の支払額などを含め、総合的に判断を下すのがおすすめです。

社会保険料は控除できる?

個人事業主が気にしなければならないのは社会保険だけではありません。各種税金の申告・支払は、個人事業主にとって社会保険と同じくらい頭を悩ませる存在だといえるかもしれません。そんなときに気になるのは、支払った社会保険料は経費として控除できるのか?ではないでしょうか。個人事業主本人が支払った社会保険料、事業所が半額負担した従業員の社会保険料、それぞれのケースで解説していきます。

個人事業主本人の社会保険料

事業を展開していくうえで必要となる支出が「経費」です。この概念と照らし合わせれば、個人事業主が自身のための支払った社会保険料は、経費には該当しません。しかし、個人が支払った社会保険料は、全額が収入金額から控除できるため、所得金額を低く抑える節税効果が得られます。経費扱いにはならないため帳簿への記載も不要ですが、節税効果がないということはありません。

従業員の社会保険料

社会保険に加入した事業所であれば、従業員の健康保険・厚生年金の半額を負担しているはずです。この社会保険料の事業所負担分は経費扱いとなるため、法定福利費としての計上が可能です。実際の仕訳では、借方である法定福利費、貸方である未払費用を計上して消し込みを行う必要があるため、税理士や社会保険労務士と顧問契約を結び、間違いのないように申告・支払いするのがおすすめです。

まとめ

ITエンジニアが個人事業主として独立するのは、収入面で大きなメリットがあるのは事実ですが、税金・保険面を含め、すべての責任を自身で負わなければならないデメリットもあります。なかでも複雑でわかりにくい社会保険は、多くの個人事業主が頭を悩ます問題でもあり、期限に間に合わせるよう会社退職と同時に手続きを進める必要もあります。各種手続きをすぐに実行に移せるよう、社会保険の基本をしっかりと理解し、独立前から最善の方法をシミュレーションしておくのが重要です。